ノーボーダー・インプロα

音楽への想いを刻みたい

Pパタが選ぶ2016ベストアルバムトップ30(前編)

音楽ブロガーのみなさんが2016年末に思い思いのベストアルバム記事をアップする中、僕はといえば選出・順位付けに時間かかり~の本文作成もなかなか進まないだので年が明けても終わらず遅れに遅れ、ようやく完成したのが下半期突入後という激烈な遅筆ぶりを遺憾無く発揮(ツイート見返してみたらベスト30枚の選定が終わったのが3/7。8割以上の文章はこの1~2ヶ月で書きました。もっと早くやる気出せよと言いたい)。反省することしきりだが、とりあえずは無事アップできたことを喜びたいと思う。

 

 

選考基準としては、2016年にリリースされたオリジナルアルバムの中から

①全体の完成度(捨て曲の無さ・ダレなさ、流れの良さ、通して聴いたときのイメージ)
②リピートしたくなる度合い・繰り返し聴いても色褪せないか?
③そのアルバムの好きの度合い

 

以上三点ー厳密に言うと他にもあるかもしれないがーで順位を決めていった。基本的に3つの総合だが、完成度はやや劣っているかもしれなくても好きの度合いが強い場合、完成度の高いものより上の順位を付けたりといったこともあった(そもそも色んなジャンルが混ざっている時点で比較するのも難いしね)。結構なボリュームになったけど(さすがに前後編に分けざるを得なくなった)、読んで下さった方の、ひとつでもなにか新しい音楽と出会うキッカケになってくれれば幸いです。

 

 

 

30. まじ娘 『MAGIC』 

Magic(通常盤)

Magic(通常盤)

 

「まじ娘」の本分はおそらく、前作収録かつトップクラスの人気曲でもある「心赦し」に代表されるような、痛みの感情を振り絞るように歌唱するスタイルにあると思うし、本作での自作曲M6「void」、M8「ワスレナガサ」といった曲でもその表現は健在なのだが、おっと思わされたのがM10「Sweet dream」。タイトルが示すような、こんな甘く幻想的な曲も書けて歌えるのだと、その幅に惹きつけられた。シングル曲のM3「mirror」などの弾けるポップスもありいずれもソングライティングの良さが光っているが、それらを隅々まで、丁寧なサウンドプロダクションで鮮やかに仕上げてみせたホリエアツシ氏(ストレイテナーVo.)の仕事ぶりも見事(彼の作曲したM9「彗星のパレード」がまた素晴らしい)。The band apart等他アーティストの提供曲もバリエーションを持たせつつ作品に溶け込んでいて、結果、トータルでみて非常に完成度の高い作品に仕上がってると思う。ニコニコ動画の歌い手出身だが、関心のない人にも是非聴いてもらいたい佳作。

 

 

29. ももいろクローバーZ 『AMARANTHUS』

4th『白金の夜明け』と同日リリースされた3rdアルバム。どちらも冒頭のインストを除いて13曲収録だが、前山田健一などそれまでのお馴染みの面子もいるとはいえ楽曲提供者がほぼバラけていることに驚異を感じた。本作では中島みゆき(M11「泣いてもいいんだよ」)にさだまさし(M10「仏桑花」)まで起用と、節操のなさに内心笑ってしまったのだが、そもそもももクロはどのような異質な要素でも受け入れられる器とパフォーマンス力を持っており、その他と一線を画すポップさを強く打ち出すことで幅広い層から支持を受け、規模を拡大していったグループだと思う。だから成長した彼女たちは曲に負けることなく自然に「ももクロのポップ」として歌を届けてみせる。その、眩しさ。(オファーされる形であろうと)名うてのアーティストの面々が曲を書いてみようと思わせる「何か」を彼女たちは持っていて、引きつけ、この途方もないスケールの一大ポップ絵巻(『白金の夜明け』とはやはりセットで捉えるべきだろう)を完成させてしまったのだ。感動を覚えずにはいられない。

 

 

28. 中村佳穂 『リピー塔がたつ』

リピー塔がたつ

リピー塔がたつ

 

京都出身のSSW。ピアノ弾き語りスタイルで、全11曲・トータルタイム38分というコンパクトさながら、各楽曲に詰め込まれた多彩なアイデアに驚かされる。イントロ明けで始まる、クラムボンのような疾走感とダイナミズムに満ち溢れたM2「POINT」、不穏さを帯びたピアノのリフレインに電車の走行音(またはドアの開閉音?)をカットアップの手法で重ねたM3「通学」、恋心を歌う軽快なポップさから一転、ラストで上原ひろみのような超絶演奏を聴かせるM6「口うつしロマンス」、スチャダラパーBoseのラップをフィーチャーした人力ヒップホップナンバーM10「makes me crazy」……など、幅があるので飽きることなく繰り返し聴かせてくれる。また、”「僕は特別」だと今日まで思っていた/何かが溢れて止まらないの”(M8「my blue」)、今夜リピー塔がたつよ だれもふんだことのないみちはあるの? だれもきいたことのないうたはあるの? いつかみたその景色に射抜かれ僕は動けない”(M1/11「リピー塔がたつintro/answer」)―というように、歌詞から諦念とも取れる深刻さを覗かせている点も見逃せない。自分なりに思うところもあるが、次作を聴けばもう少し見えてくるものがありそうなので心して待ちたい。

 

 

27. Tortoise 『The Catastrophist』

ザ・カタストロフィスト

ザ・カタストロフィスト

 

20年以上のキャリアをもつポストロックバンドの重鎮、なのだが僕はこの7thアルバムで初めて彼らの音楽に触れることになった。ただとにかくこの名はメディア等でよく目にしていたし、その評判から敬愛するFUGAZIにも通じる精神性を宿していそうだなと思っていたが、実際期待通りの素晴らしさだった。人を食ったような安っぽいシンセの音が鳴り響くイントロから一転し深い海に沈み込んでいくようなM1から始まり、いずれの曲も独創的で巧妙なアンサンブルが展開していて、何度でも聴き込む価値があると思わせてくれる(この感覚もフガジを聴いている時と共通している)。アートワーク、曲、サウンドと、あらゆる点で隙がなくカッコいいこのバンド、過去作も聴いていかなければ。

 

 

26. 川本真琴withゴロニャンず川本真琴withゴロにゃんず』

【Amazon.co.jp限定】川本真琴withゴロニャンず(ステッカー付)
 

川本真琴がスカートの澤部渡やテニスコーツの植野隆司らと結成したバンド。2016年には本作とは別にセルフカバーアルバムを出したりと、結構精力的に活動していたようだ。作詞・作曲は共同で行っているが、招集したメンバーがメンバーだけに全編に渡ってえも言われぬグッドメロディーと温かなフィーリングに満ち満ちている。ソロ作ではエキセントリックでエッジーな面が際立っていたが、このバンドでは信頼出来る仲間と心底リラックスして音楽を楽しんでいる様子が伝わってきて微笑ましい。一聴すると緩そうにやってるように感じられるのだが、よくよく耳を傾けてみると確かな演奏技術に裏打ちされた演奏がマジックを生んでいてニクい。全9曲40分とコンパクトだが十二分に満足感と幸福感を与えてくれる良盤。このメンツでもう一作ぐらいアルバム作って欲しい。

 

 

25. Kanye West 『The Life Of Pablo』

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DL販売サイト→https://music.kanyewest.com/

音質に納得いかなかった等の理由により、パッケージは作らずDL販売のみとなった本作。全体的に高水準でまとまっていてさすがという感じだが、欲を言えばもう少し飛び抜けた驚きや興奮をもたらして欲しかったなぁというのが正直なところ(「ダイヤモンドは永遠に」を初めて聴いたときのような―)。シングルのM2「Famous」は文句なしのカッコ良さなので、これクラスがあともう3~4曲あれば全体の印象も変わったかな。パッケージ、歌詞対訳解説なしで2800円ほど(確か日本円でこのくらいだったよね?)というのは割高感あるし、前言撤回して次作以降はCD復活させて下さいカニエ先生。

 

 

24. A Tribe Called Quest 『We Got It From Here... Thank You 4 Your Service』

ウィ・ゴット・イット・フロム・ヒア・サンキュー・フォー・ユアー・サービス

ウィ・ゴット・イット・フロム・ヒア・サンキュー・フォー・ユアー・サービス

 

本作リリースの少し前にツイートでその存在を知り気になっていたトライブ。センス抜群のトラックに乗せて、ジャジーにクールに軽やかにメンバーが入れ替わりラップするカッコ良さに痺れた。メンバーが一人亡くなってしまったということで、おそらくラストアルバムになるであろう点が残念だが、きちんと作品を完成させ、世に送り届けてくれたことに感謝。過去作も傑作揃いのようなので、どのような軌跡を経てきたのか追体験したいと思う。

 

 

23. Whitney 『LIGHT UPON THE LATE』

ライト・アポン・ザ・レイク

ライト・アポン・ザ・レイク

 

ボウイやイギー・ポップなど一部別格の存在を除きポップ勢に圧されていまひとつ奮わなかった感の強いロックだが、彗星のごとく現れた(と言ってもボーカルは別バンドで活動していたようだが)このホイットニーは純粋に曲の良さで音楽ファンの支持を広く集めていた印象を受けた。もちろん僕もその一人で、哀愁漂うボーカルから始まりラストは金管楽器まで用いたドラマティックな展開を見せるM1「No Woman」や、これぞインディロックの良心!と言いたくなる静謐な表題曲M5「Light Upon The Lake」など、ソングライティングやアレンジ、サウンド(深みと奥行きがあって素晴らしい!)に至るまで全く隙がなくすっかり虜になってしまった。余談だが国内盤が自分の誕生日にリリースされたのも嬉しかった。

 

 

22. D.A.N. 『D.A.N.』

D.A.N.

D.A.N.

 

M3「Native Dancer」のMVを初めて視聴した時の衝撃。ダークで、妖艶で、どこまでも醒めていて、底の見えない海に深く沈んでいくようだった。アルバム全体を通して聴いてもそのクールすぎるイメージは1ミリもブレることはなく、デビュー作とは思えない世界観の完成度合いに「久しぶりにすげえ日本の新人バンドが現れた!」と大興奮。引き合いに出されるTHE XX等にも劣らぬ高いポテンシャルを感じるが、この音楽性で日本語で歌ってくれたことを心から喜ばしく思うし、このまま世界のロックファンを巻き込んでいって欲しい。

 

 

21. 上田麗奈 『Refrain』

RefRain

RefRain

 

ベスト30の中で唯一のミニアルバム。どうしてもミニアルバムは曲数が少なくなるのでトータルの完成度でみるとフルアルバムには及ばなくなってしまうのだが、本作に収められた6曲がいずれも素晴らし過ぎたのでランクイン。目の前の景色をドラマティックに塗り替えるような強力な世界観がとにかく魅力で、すっかり虜になってしまった。上田麗奈の高く澄んだ歌声の素晴らしさよ、表現力の深さよ。全曲作詞にも携わっており(共作5曲、丸々1曲)、まさに彼女の持つイメージが色濃く反映されたアルバムと言えるだろうが、たとえばエレクトロの入れ方や音響の処理などからも、それが最上の形で表現されていると感じられ唸らされる。声優だとかそんな枠はとっぱらって、とにかくこのミラクルな結晶の輝きにひとりでも多くの人に触れて欲しい。フルアルバム超熱望。

 

 

20. Eddi Front 『Marina』

マリーナ

マリーナ

 

フォロワーさんのツイートからYoutubでMVを視聴したのが彼女を知ったキッカケだったのだが、ドビュッシーの「水」を思わせるような流麗なピアノに乗せてドラマチックに歌が紡がれるM2「Elevator」にヤラれた。この一曲だけで才能に溢れたアーティストだとビンビンに伝わってくるが、それのみならずどの曲も良い。基本鍵盤弾き語りスタイルなのだが(曲によってはギターも用いられている)、音が重く、ボーカルもエコーがかった独特の処理が施されていて(ミキシング/プロデュースはソニック・ユースダイナソーJrらを手掛けたJohn Agnelloとのこと)、アルバムを通して幽玄な森に手招きされているような感覚に陥る。フィオナ・アップルに影響を受けているようだが、彼女と比較しても決して引けを取らない世界観を持ったアーティストだと思うし、もっともっと多くの人に聴かれていいと思う。

 

 

19. 宇多田ヒカル 『Fantôme』

Fantôme

Fantôme

 

離婚、再婚、出産、といった人生のターニングポイントとなるような数々の出来事を経て製作された今作は、これまでの輝きに満ちたダイナミックなアレンジは影を潜め、より内面をストレートに反映したような曲が並んでいて、その飾り気のないシンプルさがとても凛々しく美しく感じられた。やはりこの作品を語る上で、(タイトルが示唆する)死別した母親の存在は欠かせないだろう。彼女の作風として、「誰かの願いが叶うころ」に象徴されるような”過酷なこの世界”ーのような影の面を見つめる傾向は強く、個人的にはそんな中で前に進もうと生きていく姿に共感や感動を覚えていたのだが、今作は間違いなくそれが最高レベルに達している。大切な人を失って抱いた気持ちは複数の歌に表れていて悲痛さが伝わってくるが、それを受け止めた強さが確かにあるのだ。M1「道」はこれまでに受け取ったものを糧により良い未来を掴みとっていかんとする宣言のようにも聴こえる。それと対になっているような、ラストを飾るM11「桜流し」は母・藤圭子が亡くなる一年前に『ヱヴァンゲリオンQ』の主題歌として発表された曲で、未来を予期していたかのような歌詞に驚かされるが、彼女はずっと普遍的に人々の心に届く曲を書き続けてきたのだ。自分自身も例外ではなく。

“どんなに怖くたって目を逸らさないよ 全ての終わりに愛があるなら”

このアルバムを締めくくるのにこれ以上はない、深い慈愛に満ちた大名曲。彼女はこれからも、きっとこれまで以上に多くの人の胸を打つ曲を作り続けてくれるだろう。そう確信している。


 

18. lyrical school 『guidebook』

guidebook

guidebook

 

楽曲のレベルが上がってきていることもありアイドルグループを聴く機会が増えてきた昨今。このリリスクもそのひとつだが珍しくラップミュージックが採用されている。ドハマリするキッカケになったのがM6「サマーファンデーション」だった。”大して話したこともない男の子からお祭りに誘われてドキドキ!知り合いに見つかるかも知れないてゆーか見つかりたい!”ーそんな思春期特有の甘酸っぱい恋模様を歌っているのだが、「たまらなく楽しい!」「胸が高まってる」感がトラックとメンバーのラップでこれでもかと表現されていて、その青春を猛烈に喚起するノスタルジーに完全にK.O.されたのである(夜空を華々しく彩る打ち上げ花火とそれをバックに踊るメンバーを絶妙なカメラアングルで捉えるMVもあまりにも素晴らしく、何十回と繰り返し観ている。是非BDで出して欲しい)。この「サマーファンデーション」のみならず、いずれの曲もサビに至るまでのラップはメンバーが一人ずつ入れ替わりながら繋いでいくのだがそれぞれ個性が出ていて聴いていて楽しくなるし、そこから全員の声が重なるサビ(コーラス)に突入していく様が何とも言えず気持ち良く、なぜか泣いてしまいそうな瞬間すらある。本作がメジャーデビューアルバムだったようなのだが、当時在籍していたメンバー6人のうちなんと4人も脱退してしまったようで非常に残念だ(気に入っていたコもいたのに…)。それでも新メンバーを迎えた今後のリリスクがどうなっていくのか見届けていきたい。インディーズ時代のアルバム二作も入手し変遷を辿っていきますよ。

 

 

17. Bruno Capinan 『Divina Graça』

ヂヴィーナ・グラッサ

ヂヴィーナ・グラッサ

 

ブラジル出身の男性SSWで本作は3rdアルバムとのこと。儚気な美しい歌声を最小限の音数と空間の広がりを活かした音響で聴かせてくれる、実に心に沁みる音楽だ。アコースティックな音色とデジタルな処理の融合が素晴らしく、それらが巷に溢れる歌ものとは一線を画した、非常に優れた作品たらしめている。カエターノ・ヴェローゾ等の偉大なアーティストの薫陶を受けたブルーノの歌心は確かなもので、研ぎ澄まされた楽曲群によって十分に堪能することが出来るのだが、ラストの「I've Been Waiting」では自身の声を器楽的に使うアプローチを試みていて(これもカエターノの影響のよう)、それまでの曲とはまた別種の感慨を覚えた。これからも挑戦する心を忘れることなく胸に響く音楽を作り続けていって欲しい。

 

 

16. Iggy Pop 『Post Pop Depression』

ポスト・ポップ・ディプレッション

ポスト・ポップ・ディプレッション

 

恥ずかしながら僕はこのレジェンド級のロックアイコンの作品を(ストゥージス含め)聴いた事がなく、本人が”ラストアルバム”と公言する本作で初めて触れることになった。なので、この作品が彼のキャリア上どのような位置づけになるのか、どのような意味を持つのか、といったことは一切解らない。ただ、身震いするようなカッコ良いロックンロールを全身全霊でやっていて、胸を熱くさせてくれた。その事実がすべてだと思う。瑞々しく、獰猛で、気高い。なんて素晴らしく、エキサイティングな音楽なんだろう。腕利きの若手メンバーを招集し、齢68になる男がみせた境地。他界した盟友・ボウイといい、停滞するシーンに『まだロックはやれる!』と喝を入れているかのようだ。このくらい興奮させてくれる新たなロックアイコンが現れてくれることを切に願う。

 

後編につづく!