ノーボーダー・インプロα

音楽への想いを刻みたい

Pパタが選ぶ2016ベストアルバムトップ30(後編)

 

つづきです。まだ前編を読んでない方はコチラ

 

 

15. Deerhoof  『The Magic』

The Magic 【日本先行発売/ボーナストラック付】

The Magic 【日本先行発売/ボーナストラック付】

 

2005年作の『The Runners Four』というアルバム一作のみ持っていたのだが、20曲収録で57分と微妙に聴きづらく、「良い曲もあるがややまとまりに欠ける」といったマイナスの印象を拭えなかったため、あまりリピートすることなくラックに眠らせたままになっていた。しかし今作は違った! ディアフーフというバンドマジックが生まれる瞬間を捉えたような、爆発音の如きグルーヴが炸裂するM1から始まり、他ではなかなかお目にかかれないオリジナリティに満ちた、前衛性とポップさ(ド直球のロックンロールナンバーもある)が同居する傑作に仕上がっていたのである。とにかくそのバランス感覚が見事で流れも素晴らしく、何度でも繰り返し聴きたくなる魅力に満ち溢れている。インディ・オルタナロックを愛するすべての人に聴いてもらいたい(僕は過去作も聴く必要があるだろう)。

 

 

14. UA 『jaPo』

JaPo

JaPo

 

「情熱」などに代表されるR&B色の強い初期から一転、グッと民族音楽的アプローチを強めたのが4thの『泥棒』で、以降の作品の中でも最もその方向性を突き詰め、ついにひとつの完成形をみた感のある今作(9th)。大自然と調和するかのような、森羅万象を司る偉大な存在へ祈りを捧げているような神聖さを宿した歌の数々に触れていると、UAは”アーティスト”の枠を超えて別のなにかになったのかもしれない……と思ったりしてしまう。血湧き肉躍るストリングスの調べも、ここではないどこかに誘うかのようなシタールも、潤いをもたらすピアノも、ビートを刻む以上に歌うドラム・パーカッションも、より鮮やかな色彩を添えるコーラスも、あらゆる演奏がただ“音楽”へと奉仕しているような異次元の結合をみせ、もう平伏すしかないレベルである。オリコン最高57位と歴代のアルバムの中でセールスは最も奮わないようだが、「本物」の音楽を求めるあなたにこそ是非聴いてみてほしい。

 

 

13. Childish Gambino 『"Awaken, My Love!"』

アウェイクン、マイ・ラヴ!

アウェイクン、マイ・ラヴ!

 

とんでもなくソウルフルな作品だ。ボーカルといい、ゴスペルのような分厚いコーラスといい、R&B、ファンク、ソウル、ロックといったジャンルを縦横無尽に駆け巡るグルーヴといい、マグマの如き熱を帯びたエネルギーが迸っていて圧倒されてしまう。M8「Terrified」やM11「Stand Tall」のようなしっとりと聴かせる曲もあるのだが、それがまた神聖さすら感じさせる響き(まるで祈りのようでもある)を伴っており聴き入ってしまう。冒頭から最後の曲に至るまでそんな豊潤な音が溢れていて、極上の音楽体験をさせてくれる文句なしの名盤である。ジャケットが似ていることもありファンカデリックの『マゴット・ブレイン』(偶然本作の存在を知る少し前に入手しその素晴らしさに痺れていた)からの影響を指摘する記事を見かけたが、確かにソウルフルなグルーヴやコーラスワーク、煌びやかで官能的なギターソロなど想起させられる点は多く、偉大なバンドのDNAが受け継がれている様がみてとれて喜ばしく思えた。

 

 

12. ALEEMKHAN 『URBANA  CHAMPAIGN』

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DL販売サイト→https://aleemkhan.bandcamp.com/album/urbana-champaign

その名もアルバム名も曲名も、正しくはなんと発音するのか、どこの国の人なのか謎が多いアーティストだがひとつだけハッキリしているのはこの音楽がファッキン最高だということだ(フォロワーさんの知り合いがBandCampで偶然発掘したそうで、僕もツイートをみて運良く知ることが出来た)。サックスなど吹奏楽器主体で曲は作られており、M4「DARK  CHOCOLATE」などはキング・クリムゾンの「スターレス」の冒頭部を彷彿とする崇高さを湛えていて素晴らしい。そんな瞬間をこの作品の中では何度も体験することが出来る。クリムゾン同様ジャズの影響などは感じられるが、この音楽がいかなるものなのか表現する術を僕は寡聞にして持ち合わせていない(プログレとはまた違う感じ)。……というと誤解を生みそうだが、決して奇妙奇天烈という訳ではなく、ボーカルはいい声をしているしむしろメロディアスで心地よく聴かせてくれる。ただ総体としてこれはどういったものかが掴めない、とにかく不思議な音楽なのである(iTunesのジャンルも”Unclassifiable”だし)。ぶっちゃけ傑作以外のなにものでもないので、未知なるエキサイティングな音楽を求める方には猛烈にオススメするし、我こそその正体を見破ったりという方は是非ご一報を。ちなみにBandCampでDL購入出来、CDはないがカセットテープは限定100本で販売されていた(現在は販売終了。ただDL販売は最低価格設定なし=無料でも音源が入手出来る!)。僕はもちろん入手済みである。二ヶ月くらい待たされたけど。

 

 

11. 竹達彩奈 『Lyrical Concerto』

Lyrical Concerto(完全限定版)(Blu-ray Disc付)
 
Lyrical Concerto(通常盤)

Lyrical Concerto(通常盤)

 

声優・竹達彩奈。相方の沼倉愛美についてはファンで、二人でやっているラジオは面白いため聴いていたが、彼女自身はルックスは可愛いとは思っていたものの、取り立ててファンと言うほどではなかった。そう、このアルバムを聴く時までは。正直、ぶっ飛んだ。まず序盤の流れでハートをぐわしと掴まれた。ファミコン音源風の遊び心溢れるM1「JUMP AND DASH!!!」から始まり、シミズコウヘイ(ex.カラスは真っ白Gt.)のキレにキレまくるギターリフに圧倒されるM2「キミイロモノローグ」、勢いよくハネるビートとロリータボイスで童謡の舞踏会のようなキラッキラとした世界を広げてみせるM3「SWEETS is CIRCUS」、アッパー系のアニソンの流れを汲みながらもブリッジの猛烈なアタック感で鮮烈な印象を残すM4「AWARENESS」……と、想像を絶するクオリティーの曲が立て続けに耳に飛び込んできたものだから。個人的に女性声優の音楽に求めるものはー中には前述した上田麗奈のようにアーティスティックな作品を作るケースもありそれも勿論魅力的だがー本人の個性を活かした完成度の高いアイドルよりのポップスなのだが、本作はまさにその理想に限りなく近い出来で、今後これを超えるものはそうそう出てこないのでは……?と本気で思うほどであった。もう、好きだ。好きすぎる。僕はまんまと竹達のファンになっていた。彼女曰くこのアルバムは『二次元への愛を詰め込んだ作品』とのことだが、まさにアフレコをするように曲ごとに声色を使い分けていて、そういったところも注目して楽しめるポイントだし、全体により一層彩りを添えていると思う。そこのところで特に気に入っているのがM10「ナナイロ⇔モノクロ」で、ここでは意識的に無機質な歌唱がなされており、エフェクトで処理も施されていると思うが、曲のもつ世界観と非常にマッチしていて素晴らしい(また、高速で流れるピアノのサンプリング・左右のチャンネルの振り方の巧妙さ、中毒性のある独自のビート感などトラックが死ぬほどカッコイイので必聴だ)。……キリがないので控えるが、他にも良い曲は盛り沢山である。ファンシー度全開のこのジャケ(初回盤)も完成度高し!で、2016年作の中でも屈指のヘヴィロテ必至盤となった。

 

 

10. Radiohead 『A Moon Shaped Pool』

A Moon Shaped Pool [国内仕様盤 / 解説・歌詞対訳付] (XLCDJP790)

A Moon Shaped Pool [国内仕様盤 / 解説・歌詞対訳付] (XLCDJP790)

 

歴代のアルバムの中でも最も美しいジャケ(個人的見解です)があしらわれた今作は、そのイメージに違わぬ美しい楽曲が収められた素晴らしい作品になった。エレクトロよりなアプローチを強めていた前作から比べると歌ものに回帰したなという印象で、そのトムの儚げな歌を最大限にまで引き立てるかのようなストリングスや鍵盤、アコギなど各楽器の使い方には心底唸らされる。痛切な歌詞(離婚を経たトムの傷心具合が色濃く反映されたよう)とは裏腹にサウンドには不思議と温かみがあり、過去作で見せてきたような音楽的な革新性はないものの、これまでに感じたことのない優美さをアルバム全体から描き出していて驚きと感動を覚えた。近年の作品ではダントツで気に入っているし、先行して公開されたM1から始まりアルバムリリース後のSNSでの一連の反応をみても、ファンが喜びを共有している感じがひしひしと伝わってきて嬉しくなった。

 

 

9. YEN TOWN BAND 『diverse journey』

diverse journey(初回限定盤)(DVD付)

diverse journey(初回限定盤)(DVD付)

 
diverse journey(通常盤)

diverse journey(通常盤)

 

岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』の劇中バンド・YEN TOWN BANDの、1stアルバム 『MONTAGE』からなんと20年の時を経てリリースされた今作。どういった経緯なのか詳細は分からないが、これだけ最高の作品を作り上げてくれたことに感謝する他ない。全体を通して楽曲のスケールは前作を大幅に上回っており、これでもかと言うくらいのどポップさに高揚させられ、ドラマティックなメロディーは琴線に触れ、聴いていると脳内に理想郷とでも言いたくなるようなイメージが広がっていく。また声を大にして言いたいのがCharaのボーカルが素晴らしすぎるということだ。……いや、元々圧倒的な個性をもった稀有なシンガーだとは重々承知していたつもりだったが、楽曲のクオリティが上がると共にその表現力をこれまで以上に発揮してくれたという感じで、自分の中で賞賛度合いが更に更新された次第である(あと初回盤付属のライブDVDで近年の姿を見たが若すぎる。妖精か!)。最高の楽曲と最高のボーカルが合わされば……当然のごとく冒頭で述べた通りになるという訳だ。前作のオリコン最高順位は1位だが今作は16位ということで、リリースに気付いていない音楽ファンも多いのでは?(タワレコでも展開されてるのを見かけなかったし、僕自身見逃すところだった)今からでも遅くないので未聴の方は聴くべし!

 

 

8. Solange 『A Seat At The Table』

ア・シート・アット・ザ・テーブル

ア・シート・アット・ザ・テーブル

 

姉妹揃って同じ年に渾身の一作をリリースするのだから血は争えないなと思う。ただ聴き比べて面白いのはスタイルはかなり異なっているところ。力強く凛々しいボーカルとダイナミズム溢れる楽曲で魅せる姉のビヨンセとは異なり、スウィートで透明感のあるボーカルに、全体的にスローテンポで音の間隔を存分に活かしたトラックーと、受ける印象は対照的だ(と言ってもソランジュにも内に秘めた力強さは感じられるし、ビヨンセにしても繊細さは持ち合わせているが)。サラっと流すことも出来る聴きやすさなのだが、細かいところまで作り込まれているため何度でもリピートしたくなる魅力がある。艶やかでしなやかなサウンドは交流する機会を多く持っているというインディロック系のアーティストの影響が大きいだろうか? R&Bテイストを残しながらも、その枠には収まりきらないオリジナリティに溢れていて素晴らしい。本作にはトライブのメンバーや、今年文句のつけようのない傑作をリリースしたSamphaなどゲストも多数迎えられており、一線で活躍するアーティストが互いに刺激を与え合っていることが見て取れて微笑ましくなったのだが、そのクリエイティヴィティが自分のリスナーとしての領域を広げてくれたとも感じられるので、先々振り返ってみても重要な一作と位置づけられる気がしている。いままで聴いてこなかった音楽への関心が高まったことで、またどんなエキサイティングな音楽に出会えるだろうかと、これからがより楽しみになった。

 

 

7. sora tob sakana  『sora tob sakana

sora tob sakana

sora tob sakana

 

M2「夏の扉」から立ち昇る強烈なセンチメンタリズムといったらどうだろう。ギター・ベース・ドラムの暴れ狂うような疾走感溢れる轟音グルーヴとそれを包み込むような煌びやかなピアノの音色は、幼少時代の未知の広がる世界に足を踏み入れる時のようなワクワクする気持ちを喚起し、同時に、郷愁を帯びたメロディーはそんなかけがえのない感情も年を重ねるにつれ失われていく儚さ・焦燥感を表しているかのようだ。そして、そんな相反するものの狭間で生きることを象徴するかのような、まだ幼さを残した少女たちの歌声。あまりにも眩しくて、胸が締め付けられるようだった。アルバム全編を通して、エレクトロニカ、マス・ロックといった要素を取り入れ音楽的にとてつもなくハイレベルなことをやっていて、その演奏に四人の少女たちの真っ直ぐな歌声が乗ることで生まれる特別さは、まさに魔法としか言いようのない輝きを放っている。また、熱い。ポップな曲もキュートでそれはそれは魅力的なのだが(M5のMVは必聴)、忘れかけていたロック魂に火を点けてくれるような激燃えのナンバーもあり(M4、M6、M7、M12など)、それらももちろん前述した彼女たちが歌うことで宿るマジックが炸裂しているのだからたまらない。こんなエキサイティングな作品に出会いたくて音楽を聴き続けていると言っても過言ではない。僕が千の言葉を尽くそうともこの素晴らしさを表現しきることは出来ない。だからこれを読んでいる人には聴いてみて欲しい。バリエーションに富んだ曲を聴き進み、ラストのM14「クラウチングスタート」で訪れるであろう感動を是非味わってもらいたい。なかなかお目にかかることのない「魔法」が、あなたを待っているから。

 

 

6. Beyonce 『Lemonade』

レモネード(DVD付)

レモネード(DVD付)

 

2016年の個人的なトピックとして、(それまで手を出すことのなかった)R&B系統のポップ勢も聴くようになったことが挙げられる。完全に食わず嫌いだったと言わざるを得ないが、このテのジャンルは似たり寄ったりにしか感じられなかったのだ。その認識を覆してくれたのが本作である。例えばM3「Don't Hurt Yourself」では元The White StripesのJack Whiteをフィーチャーし、スピード感のあるスリリングなトラックに乗せて彼に決して引けを取ることのない鬼気迫るボーカルを披露していたり、Kendrick LamarをフィーチャーしたM10「Freedom」では圧倒的なスケールとダイナミズムで『自由』(”女性”であること、“黒人”であること等からのー)を求めるメッセージを力強く発信していたりと、ロック好きの自分に十二分に訴求する内容だったというのが大きかった。ーのだが、何よりそんなロックな要素のみならず、アルバム全編を通してビヨンセのソングライティングとボーカリゼーションの織り成す表現の幅の広さ、深さ、洗練度合いが信じられない程にズバ抜けていて、感銘を受けるとともに心から敬服してしまった。なんて素晴らしいアーティストなのだろう、と。全12曲46分、全く無駄がなく理想的な流れで、一瞬たりとも冷めることなく大いなる感動をもって最後まで聴き通すことが出来る。出会えて良かった……ビヨンセ最高や!!

 

 

5. David Bowie 『Blackstar』

★(ブラックスター)

★(ブラックスター)

 

2016年1月10日。僕はその日、奇しくも本作『Blackstar』を近所のCDショップで試聴していて、”確かに評判通り良さそうだけど今月は余裕ないし後で買おう”などと思って店を出た。エレベーターで1Fに降りて帰路に就こうとしたところ、スマホのプッシュ通知で「その事実」を知ることになる。

―歌手:デヴィッド・ボウイさん死去―衝撃だった。我が目を疑った。ただ何度みても確かにそう記述されていた。あまりの突然の出来事に内心狼狽しながら、踵を返してショップに戻りこのCDを買っていた。今聴かないでいつ聴くんだ、と。ただ正直に告白しておくと、僕は昔から彼を追いかけてきた熱心なファンという訳ではなかった。所有していたのは中古で買った93年の『Black Tie White Noise』に、初めて新品で買った『Reality』、それからVUとの交流で影響を受けたと言われる近年復刻された『Hunky Dory』の三枚のみという浅いファンである(あとは『ジギー・スターダスト』などもう数枚レンタルで聴いていた程度)。それでもスタイルを変化させ続けながらロックシーンに多大な影響を与えた存在として惹かれていたし、作品は追っていきたいと思っていた。まさかこんなに早くラストアルバムを遺すことになってしまうとは夢にも思わなかったが。本作は、ほんとうに感動的なまでに素晴らしかった。死期を悟っていたことが窺えるM1やM3をはじめとして、不穏なムードを全体に漂わせながらも、未知でエキサイティングなものを創造せんとする音が鳴らされていた。まだまだこれからすごいことをやってみせてやるという、予感と確信に満ちた音楽だった。結果として、このアルバムをリリースしたその二日後にボウイは”ブラックスター”となり、これぞ最後という印象を作品に与えた。賞賛の嵐だったし、僕ももちろんみんなと同じ気持ちだ。ライブに一度行ってみたかったな、とか、後悔や至らなさといった鈍い痛みをわずかに覚えながら。ラストの「I Can't Give Everything Away」が、すべてのファンへ捧げる贈り物のようで、また自身をあるべきところに還す葬送曲のようでもあり、この世ならざる美しさが胸を打つ。デヴィッド・ボウイはかけがえのない特別な存在だったのだと、過去作を追っていく中で僕はこれから知っていくのだろう。本作を聴きながら、いまはただ思いを馳せている。

 

 

4. Nick Cave & The Bad Seeds 『Skeleton Tree』

スケルトン・ツリー

スケルトン・ツリー

 

名前は知っているが聴けていなかった大御所シリーズ。イギーに並んでニック・ケイヴもまた、最新作で初めてその音楽に触れることとなった。なんて心に沁みる歌声だろう。それまでの人生の重み(決して平坦ではなかったと伝わってくる―)の乗った、嗄れた深い味わいのある歌声。切実で、胸に迫ってくる。自分の望みとは裏腹にどうにもならないことの多いこの世界で(2015年にニックは息子を亡くしている)、それでも生きてかけがえのないものを伝えんとする意思が滲んでいる。本作に収められたトラックはいずれも静謐さを湛えていて、コーラスやアレンジは歌声をより特別なものへと昇華させる神聖さを帯びている。冷たい孤独に晒されながら神と対峙しているような印象すらあって(書いてから気付いたが、一曲目のタイトルは「JESUS ALONE」だ)、ポエトリーリーディングに近い歌唱は祈りのようでもあり、懇願のようでもあり、懺悔のようでもある。高潔さとネガティヴィティが同居しているようなその言い知れぬ魅力に耳を離すことが出来ない。本作で訴えられているメッセージは決してストレートに聴き手を鼓舞するようなものではないだろうと思う。傷つきながら、凄惨さに押しつぶされそうになりながら生きた、ひとりの男の痕跡が生々しく焼き付けられているのみだ。だがそのパーソナルな物語は、彼同様に苦しみを抱えた者に共感と癒しをもたらす。打ちひしがれた時、絶望に晒された時、真に寄り添ってくれるのはこういう音楽だ。少なくとも僕には絶対に必要なものだ。情けなさや汚さがいかに含まれていようと、生きることの意味を教えてくれるようなこの作品はあまりにも美しく愛おしい。

 

 

3. Anderson .Paak 『Malibu』

MALIBU [国内仕様盤 / 帯・解説付き](ERECDJ218)

MALIBU [国内仕様盤 / 帯・解説付き](ERECDJ218)

 

「これほどまでに豊穣でスタイリッシュで輝きに満ちた音楽があるだろうか」と、一聴して頭をぶっ飛ばされ、完膚なきまでに虜にさせられた。この全面降伏させられる感じ、プリンスに比肩する才能の持ち主と言っても過言ではないかもしれない。アンダーソン・パーク、恐ろしい男である。僕は常々「本物」の音楽を聴きたいと思っているし、その定義はなにかと考えたりもするのだが、『普段そのジャンルを聴かない人にも訴求出来ること』というのがひとつ挙げられる気がしている。前述したプリンスであったり、マイケル・ジャクソンビートルズといった面々はジャンルの壁を超えて多くの人々に支持され、愛されている。そのような強烈なカリスマ性を備えているもの―だ。アンダーソンもやすやすとこちらの壁をぶち破ってきた。プリンスやファンカデリックなど一部のアーティストを除き普段ほとんど接することのないソウルに関心を持たせてくれたのは大きかったが、それもジャズやヒップホップといった複数の要素をあまりにもナチュラルにクロスオーバーさせる抜群のセンスがあればこそで、この音楽体験は何にも代え難いものだった。新たな扉が開かれる興奮。心酔。アンダーソンの声がまた、他ではなかなか聴けないハスキーがかった高音で、ハイクオリティーなトラックと相まってめちゃくちゃカッコ良いのだ。彼がラップすればたちどころに華やかになる。一躍僕の中で最も注目するアーティストになってしまったが、次作が想像を絶するものになっていることに期待しつつ(過度な期待は危険と知りつつ、それでもやってくれるという確信めいたものを抱かずにはいられない)、それまでこの素晴らしいアルバムを聴き返し続けるとしよう。

 

 

2. Leah Dou 『Stone Cafe』

ストーン・カフェ

ストーン・カフェ

  • アーティスト: リア・ドウ,エル・マーゴット,ワン・ウェニング,ノエルアンソニー・ホーガン,ドロレスメアリー・オリオーダン
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2016/08/17
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

透明度がありながらどこか醒めているように理知的で、それでいて繊細なリリカルさも内包したこの稀有な歌声を持つSSWに出会えたのは幸運だった(なにせロッキングオンで2P程度の密やかなインタビュー記事が載っていた程度で、自分の目に付く範囲では取り上げている人はいなかったので)。アジアの歌姫フェイ・ウォンの娘、という肩書きは必ずメディアで報じられるだろうが、そんなことに触れる必要がないくらい確固たる世界観を作り上げていて、大変失礼ながら中国人に本作のような洗練されたモダンな音楽がつくれるのかと心底驚かされたものだ(歌唱はすべて英語だが、独自の響きは母国語が中国語ということにも起因しているだろうか?)。リア・ドウは幅広く音楽を聴いていたようだが、特に名を挙げているマッシヴ・アタック等、オルタナ系統からの影響が色濃く感じられ、そのややダークな世界観と澄んだ歌声(又は佇まい)とのギャップが何とも言えない魅力を醸し出している(軽やかな曲調のナンバーもあるが)。デビューシングルのM8「River Run」は終始窒息しそうなほどの緊張感が保たれていて圧倒されるが、M1「My Days」では不穏なイントロから始まるもののサビではポジティブでキャッチーな歌メロが顔を見せ、その絶妙なバランス感覚が素晴らしい。また、M5「The Way」で聴ける印象的なギターの揺らぎの音や、M7「Drive」での沈んだドラムやボーカルのエコーなど音響が非常に優れている点もアルバムの完成度をより高めている。オルタナを通過しながら独自の美意識でポップにまとめあげる卓越したセンスは見事としか言いようがなく(捨て曲一切ナシなのだからそれはもう)、プレイヤーとしてギター&ベースの演奏も行い、複数のコラボレーターと組みながらも作品の統一感を損なっていないことからも、高いセルフプロデュース/アレンジ能力を持っていることが窺えるが、本作リリースの時点でまだ19歳だったという事実には驚愕である(同じく早熟の宇多田ヒカルのアルバムとデザインが似ているのは偶然?)。あまりにも自然に曲が配置されているので全く気にならないが、このアルバムはこれまでに発表した楽曲をまとめた結果出来たものだそう。それでもこの完成度なのだから、”アルバム”を志向して製作されたとすると、次作(2nd)は一体どのくらいの出来になるか、(まだまだ伸びしろがありそうなことも相まって)想像がつかない。リリースされる日を心待ちにしつつ、この稀有な才能の行く先を見届けていきたいと思う。

 

 

1. Isis Giraldo Poetry Project 『Padre』

パドレ Padre

パドレ Padre

  • アーティスト: イシス・ヒラルド・ポエトリー・プロジェクトIsis Giraldo Poetry Project
  • 出版社/メーカー: Jazz The New Chapter
  • 発売日: 2016/11/23
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

R&Bへの目覚めなど他にも色々あったが、このアーティスト(作品)との出会いは2016年最大のトピックだったかもしれない。創造性に満ちたエネルギーのある音楽だが時おり不穏な旋律を響かせ、一曲の中でちょっと想像もつかない展開をみせることもある。クラシック、フリージャズ、現代音楽、プログレ、ゴスペル、フォルクローレといった要素を含みながら、めまぐるしくナチュラルに変化していくため、総体として浮かび上がるイメージが既存のものに当てはめにくく、まさに未知の音楽だと感じさせられるのだ。理由はハッキリとは分からない。ただこの音楽を聴いていると泣けてくる。母国のコロンビアから離れたカナダの地で見つけた音楽仲間とのこのプロジェクトでイシスは、ジャンルやシーンに縛られることなく、想像の翼を広げて自由に、どこまでへも飛び立って行くような広がりを感じさせつつも、自身の内面を、魂の内側まで掘り下げていくような内省的な面も覗かせる。彼女のピアノと歌、それにぴったり寄り添うようなメンバーの演奏は、忘れていたなにかを揺り動かすようで、また未だ見ぬこれからの輝かしい情景を垣間見せてくれるようでもある。この、感情を多面的に刺激される感覚は他ではなかなか味わえないもので、イシス・ヒラルドというアーティストがいかに深みをもった類稀なる才能の持ち主であるか痛感せずにはいられない。本作は厳密には2015年作で、高橋健太郎氏が偶然(YouTube→BandCampから)発掘したことがキッカケで日本盤も晴れてリリースされることになった訳だが、それが去年だった為2016年作として挙げさせてもらうことにした(僕自身はそのタイミングで知ったしどうしても入れたかったので)。先に紹介したALEEMKHANもそうだが、才能溢れるアーティストの作品がこのように日の目を見る機会を得るというのは素晴らしいことだと思う。それと同時に、まだまだ埋もれたままになっている人たちもいるだろうから、少しでも多く今回のような幸福な出会いを果たしていければとも思った次第だ。

 

 

 

【その他惜しくも選に洩れた・気に入っているアルバムたち】

・Black Mountain『Ⅳ』

・Fernanda Abreu『Amor』

・Hinds『Leave Me Alone』

・D.D Dumbo『Utopia Defeated』

・Warpaint『Heads Up』

Red Hot Chili Peppers『The Getaway』

Cocco『アダンバレエ』

・OREG YOU ASSHOLE『ハンドルを放す前に』

岡村靖幸『幸福』

スピッツ『醒めない』

田所あずさ『It's my cue!』

上坂すみれ『20世紀の逆襲』

三森すずこ『Toyful Basket』

山崎エリイ『全部、君のせいだ。』

・『サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う- ヴォーカルCD』

 etc…

 

 

~あとがき~

 

今回はベテラン勢がやや苦戦?その代わりにー

2016年は宇多田ヒカルCoccoUA(ライブもマジで最高だった)、Syrup16gザ・コーラルピクシーズ等、フェイバリットに挙げる(名前だけで試聴せずに買う)ようなアーティストが新譜をリリースする情報が続々舞い込んできて胸が高まった。ただ必ずしもキャリア最高作にはなるとは限らないもので、今回の記事作成にあたりネームバリューは一切無視してシビアに良かったもののみを選出した。結果、それら馴染みある面々の多くのアルバムは厳しい結果となった(特にコーラルには期待していたが前作が完全無欠の傑作過ぎた)。カウントしてみると、はじめて聴いたアーティストのアルバムがなんと30枚中22枚も占めていた!うち1stアルバムをリリースした”新人”(川本真琴は今回のバンドのアルバムは初なのでここに含んでいる)は半分の11組。なかなか多いと思うし、個人的には上位2/3は新たに開拓したアーティストということで、いままでにない刺激を受けながらとても充実した音楽ライフが送れたと思う(ちなみに国内アーティスト11枚、国外19枚で、それほど偏り過ぎていない適度なバランスなのも良かった)。

 

 

選外になってしまったアーティストについて

ギリギリまで入れるか否か迷っていたのがブラック・マウンテンとフェルナンダ・アブレウで、前者は1st 、2ndリリース時に即買っていた結構思い入れのあるバンドで(3rdはスルーしてしまっていたがwZEPやブラック・サバスに影響を受けつつサイケな要素もある)今作はシンセの導入など新機軸だったが、思い入れの面でまじ娘の方がやや上回った。フェルナンダはブラジルのSSWでなんと前作から13年ぶりの新作!ずっと待っていた甲斐のある良いアルバムだったが、全体を通して聴いた時のイメージ・充実感があともう一歩足りなかったため残念ながら外すことにした。メディアや一般リスナー問わず高評価を得ていたハインズは、大好きなThe Velvet Undergroundの影響が強く感じられて嬉しかったし今後が楽しみな新人。岡村靖幸は『家庭教師』一作のみ聴いていて衝撃を受けていたが、今作のエネルギーにも圧倒された。オウガは初めて聴いたが好みど真ん中だった。

 

女性声優の作品は竹達彩奈上田麗奈以外にも気に入っているものがちらほら。前作から一転、全開でロックモードに突入した田所あずさは上半期で最もリピートしていたアルバムかもしれないw(かなり素晴らしい曲もあり、そういったものがもっと多く含まれていたら圏内になったかも。早くも今年の10月に新譜が出るので期待したい)全体のまとまり等でマイナスにはなったものの、上坂すみれの圧倒的な個性はかけがえのないもので、次作以降とんでもない傑作に仕上がる可能性も十分考えられるので期待。三森すずこはまさに求めるアイドルポップど真ん中で最高だが何故ラスト4曲をリミックスにしてしまったのか責任者に小一時間問いつめたい。80年代をテーマにした山崎エリイも良かった。クラムボンのミトをはじめとして、声優の作品には昨今腕利きのクリエイターが多数参加していてクオリティが上がっているため非常に面白くなっている。今後も追い続けていきたい。あと『サクラノ詩』のボーカル曲はシューゲイザー系など秀逸なものが多くオススメ。

 

 

なんでこんなに遅くなっちゃったの?

おおPパタよ、2016年中にアップできないとは情けない。その心はー11月以降にそれまで検討していたアルバムをまとめ買いし始めて聴き込むのに時間がかかり、それのみならず2017年に入ってからもぽつぽつと見逃していた作品に気が付き入手していってしまったから、というのがひとつ(サニーデイ・サービスとか本当に素晴らしく、買えば確実にランクインしたと思うが気付いたのが遅くキリが無かったので打ち切った)。また、この記事が書きたくてブログ始めたようなものだし、各アルバムに思い入れもあり、筆がなかなか進まなかったというのもあった(とりあえずクオリティ気にせずやっていったら格段に早くなった)。冒頭にも書いたが、30枚に絞る時点で時間をかけすぎたので、今年(2017年)の分は二の轍を踏まないよういまからおおよそ気に入っている順に並べておき、新しく買った際に随時更新していくスタイルでいこうと思う。これで2017年ベストはバッチリすぐ上がる筈だ(フラグ)。

 

 

総括的なアレ

やはり例年と比べて全体的にロックが減り、ポップが増えたなという印象。特にロック系は新人となると選外のものを含めても数えるほどしかおらず、刺激的なアーティストにはあまり出会えなくなったなぁと思う(インディ系を掘ればチラホラという感じだけど。アラバマ・シェイクスくらい素晴らしいバンドがもっと沢山出てきて欲しい)。自分の関心がポップ方面に移ってきているのも大きく、ここらへんに関しては前述した通りR&B・ソウル系統やアイドル(声優含む)等とてつもなく充実しているため追っていくのが楽しすぎた(2017年現在もやはりこの状況が続いている)。まぁ思いもよらなかったところからエキサイティングな音楽に出会える可能性だってあるだろうし、引き続きアンテナを立ててよりよいものを探していこうと思う。ちなみに2016年のベストソングはダントツでsora tob sakanaの「夏の扉」だ。

 

 

選出したアルバムの曲紹介動画を作る予定だよ

今回はYouTubeの曲リンクは基本貼らなかったが、各アルバムから1曲ずつ選りすぐったメドレー動画を作ってニコニコ動画にアップする予定。30~16位までと15~1位まで、15曲ずつ前後編に分けて。

これまでに作ったものがコチラ↓

http://www.nicovideo.jp/my/mylist/#/5541375

最後にアップしたのが4年前で、編集ソフトの使い方を覚えているかやや不安ではあるが(かなり初心者)、これもずっとやりたいと思っていたので再トライするよ。完成したらまたブログで報告するので、もしこのベスト30のアルバムに興味を持ってくれた人がいたら待っておいてください。それでは読んで下さった方、ありがとうございました。

 

2017年ベストはコチラ