ノーボーダー・インプロα

音楽への想いを刻みたい

【後編】Pパタが選ぶ2018年ベストアルバム40

前編のつづきです。

 

 

20.Georgia Anne Muldrow『Overload』

Overload [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC583)

Overload [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC583)

 

  ネオソウル系のアーティストの作品を聴く機会は増えたが、これも最も素晴らしいもののひとつ。基本ミドル〜スローテンポで、独創的な音色を配した先鋭的なトラックを泳ぐように、どこまでも伸びやかでソウルフルな歌声が響き聴いていて最高に気持ちいい。コーラスの使い方もまたお見事。



19.Mitski『Be the Cowboy』

ビー・ザ・カウボーイ

ビー・ザ・カウボーイ

  • アーティスト:Mitski
  • 出版社/メーカー: Hostess Entertainment
  • 発売日: 2018/08/17
  • メディア: CD
 

  M1「Geyser」の衝撃。高揚感溢れる輝かしいメロディと壮大なスケール感に一気にもっていかれた。正直前作はさほどという感じだったのだが、この2ndで化けたなという印象。オルタナロックの熱量は保ちつつ、M9のようなウェルメイドなポップスも披露してみせたりと、スタイルに捕われない軽やかさもみせる。ゆくはP.J.ハーヴェイかフィオナ・アップルか。可能性を感じさせるSSWだ。



18.cero『POLY LIFE MULTI SOUL』

POLY LIFE MULTI SOUL (通常盤)

POLY LIFE MULTI SOUL (通常盤)

 

  もう音楽を愛し音楽を楽しんでる感がすごいし、結果とてつもなく豊潤な音楽が出来ましたという感じで最高。ハイレベルな事をやりながらどポップに仕上げる腕前、センスしか感じない。



17.Fatima『And Yet It's All Love』

アンド・イェット・イッツ・オール・ラヴ

アンド・イェット・イッツ・オール・ラヴ

 

  まずジャケットがいい。ジャケに惹かれて試聴したらドンピシャだった。これもネオソウル系だが音数は少なめで、音の隙間を活かして強いグルーヴを生み出していて素晴らしい。歌声もいいね。



16.Jamie Isaac『(04:30)Idler』

(04:30) アイドラー[歌詞・対訳・解説付き]

(04:30) アイドラー[歌詞・対訳・解説付き]

 

  印象的な艶やかなピアノとファルセットを用いた美しいボーカル、洗練されたサウンドと、とにかく耳心地がよく浸らせてくれる。中でも切ないメロディの光るM10「Drifted / Rope」は甘美すぎて溶けそう。落ち着きたい夜に聴きたい音楽。



15.w-inds.『100』

100(通常盤)

100(通常盤)

 

  デビュー間もない頃、まだ少年でアイドル然とした彼らをTVで目にする機会はあったものの、取り立てて刺さるものもなく全く関心のなかったw-inds.。それがいつの間にか、先端のサウンドを取り入れた超イケてるダンス&ボーカルユニットに大変身していたのだから驚いた。強く影響を受けているのは現状の米国やK−POP等メインストリームのポップスだろうが、その換骨奪胎ぶりが見事で随所に光るものを感じる(特にM7「Time Has Gone」なんてMV含めてセンスの塊で思わず舌を巻いた)。

 またこのアルバムがすごいのは、ほぼ全ての楽曲の作詞・作曲及びトラックをメンバーの橘慶太が手掛けたセルフプロデュース作品であるところ。それで海外の最新鋭のポップスに引けを取らないハイクオリティーなものに仕上げているのだから恐れ入る。ぜひBTSの音楽が好きな女の子にも彼等の音楽を聴いてもらいたい(メンバーの年齢は一回りは上だが笑)。もちろん僕はどちらも大ファンだ。



14.The Internet『Hive Mind』

ハイヴ・マインド

ハイヴ・マインド

 

  噂はかねがねだったが本作で初聴き。個人的にはR&B系統でバンド演奏というのが目新しくそれだけで新鮮だったが、曲によってロック等様々なジャンルのテイストを取り入れた変幻自在なグルーヴ、奥行きの感じられるサウンドなど聴くほどに引き込まれていった。また、紅一点ボーカル・シドのキュートさと知性が絶妙にブレンドされた歌声もとても魅力的。



13.Blood Orange『Negro Swan』

ニグロ・スワン

ニグロ・スワン

 

  くくもったような感じにしたり、ピッチをわざとズラすような処理を施したりとサウンド面で意匠を凝らしつつ、切なげなメロディを紡ぐデブ・ハインズの歌の素晴らしさといったら……! 全編通してズバ抜けたセンスに脱帽。



12.Janelle Monae『Dirty Computer』

ダーティー・コンピューター

ダーティー・コンピューター

 

  もはや横綱相撲を見ているよう。ソングライティング、サウンドプロダクション、歌唱パフォーマンス、他では絶対マネできない独創的な世界観、全てが完成されていてひれ伏すしかないレベル。殿下、貴方の才能を引き継ぐアーティストがここにもひとり。



11.THIEFS『Graft』

Graft (グラフト)

Graft (グラフト)

  • アーティスト:THIEFS (シーフス)
  • 出版社/メーカー: rings
  • 発売日: 2018/09/19
  • メディア: CD
 

  サックス、鍵盤、ドラムの3ピースによるジャズバンド、なのだけどかなり実験的でオルタナ志向の音楽をやっているなという印象。現代音楽寄りな前衛性を見せたと思ったら、ラッパーも何曲かでフィーチャーしモダンな要素も取り入れたりと、全体から立ち上がるイメージはジャケが示すように相当にカオティックである。掴みどころがないから少しでも解ろうとまた再生して……と、まんまと彼らの術中にハマってしまった。



10.みんなのこどもちゃん『壁のない世界』  

壁のない世界

壁のない世界

 

 "私なんかがこんな世界にどうして生まれてきたの? ねぇねぇ 早くここから出して"ーM3「死ねばいい」

"眠る前いつも思う 起きたら死んでたい"ーM8「起きたら死んでたい」

 

 かなりストレートに(『死にたい』というど直球のもの含めた)負の感情がぶつけられた歌詞を、それに反比例するような猛烈な熱を帯びたゴリゴリのメタルサウンドに乗せて歌われる、このみんなのこどもちゃんの音楽に惹かれる理由は何だろう? 白状すると、厭世的だったり自己嫌悪の感情を持っていた事があったのは確かだが、自分と重ねて共感しているというのとはちょっと違う気がする。

 考えてみると、歌詞にはネガティブさが横溢しながらも、『ただ子供が自暴自棄になっているだけ』と切って捨てる事の出来ない知性や詩情らしきものも感じられるし、またその闇深く渦巻いた感情をもつ彼女たちを、前述したヘヴィーな演奏が世界に対峙する力を与えたり、昇華させているようにみえ、そのストーリー性に感動しているからかもしれない。ここのところ聴いてると様々な感情が去来するので明言し難いが、とにかく僕はめちゃくちゃ好きだ。

 

 2019年8月、初めてライブに行く事が出来た。残念ながらほのかは療養中だったのでしなもん1人(とバックバンド)のみながらパフォーマンスは素晴らしかった。特典会で『次は2人揃ってのライブを楽しみにしてる』と伝え"そうだね!"と返事をもらうも、それからひと月と経たずほのかの脱退が発表され頭が真っ白になった。しなもんは継続して活動するとの事だが、一度だけでも2人で歌うM9「ふたりはなかよし」のパフォーマンスを観たかった。アイドルの儚さを痛感しつつ、残ったしなもんによる"みんなのこどもちゃん"の行く先を見届けていきたい。



9.Vicktor Taiwo『Joy Comes In Spirit』

JOY COMES IN SPIRIT

JOY COMES IN SPIRIT

  • アーティスト:VICKTOR TAIWO
  • 出版社/メーカー: INOV
  • 発売日: 2018/06/01
  • メディア: CD
 

  本作についての説明文に「スムースR&B」とあり、これに分類される曲を紹介した記事を確認すると、"高低差が少なく滑らかで、最先端だけどどこかノスタルジー"という特徴があるようだった(ケレラの曲もあった)。ざっくりとしたジャンル分けだがインプットしておこう。

 さてタイウォ、聖歌隊出身とのことで歌声と楽曲にその世界観が反映されていて素晴らしく、また多重コーラスを用いたM4に顕著なように、空間の広がりのあるサウンド作りがなされていているのも最高だ。何度も聴き込む価値のある作品。



8.JULIAN BRANCO『Soltar Os Cavaros』

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 めっけもんだったブラジルの女性アーティスト。数多くのMPBを手がけてきた名プロデューサーで本作がデビュー作らしい。

 ボサノヴァの根付くブラジル人特有の歌声が素晴らしく、またバックバンドもそのテイストを内包しつつも、時にロック的なアプローチへとナチュラルなシフトをみせ、一筋縄ではいかない音楽を編み上げていて唸らされた。やっぱりブラジル音楽って味わい深くてエキサイティングで最高だ。



7.Billie Eilish『Don't Smile At Me』

ドント・スマイル・アット・ミー+5(限定盤)

ドント・スマイル・アット・ミー+5(限定盤)

 

  白状するとタナソーの音楽ウェブサイトでの紹介記事を見て初めて彼女と本作の存在を知り、手に取りました。今や押しも押されぬスーパースターとなったビリーアイリッシュ。このデビューEPの時点でダークさとピュアネスさの両面併せ持つ世界観は確立されていて、サウンドは勿論、まだ幼さも残るその歌声の素晴らしさにただただ魅力された。M6「Bellyache」のMV一発でK.O.



6.Chara『Baby Bump』

Baby Bump(通常盤)

Baby Bump(通常盤)

  • アーティスト:Chara
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2018/12/19
  • メディア: CD
 

  近年彼女の新譜はチェックしていたものの買うところまではいっていなかった。だけど今作は違った! 1曲目ープリンスを想起させるキレキレのファンクサウンドとそれに官能的に絡むCharaの歌ーそのあまりものカッコ良さに脳天に電撃が走った。以降、ラストナンバーに至るまでそのクオリティーは全く落ちることがなく、当然の如く購入し彼女の音楽の虜となったのだった。衝撃度は2018年最高クラスだったかも。



5.J.P. Bimeni & The Black Belts『Free Me』

フリー・ミー

フリー・ミー

 

  近年関心を持ちつつあるソウルだけど、段違いのカッコ良さで魅力してくれたのが本作。往年の名シンガーを想起させる渋さと深みのある歌声を持つビメニに、バックを務めるブラックベルツが彼に呼応するように熱の籠もりまくったドラマチックなプレイを聴かせてくれる。こんなに良いならもっと聴きたい! とソウルへの熱を高めてくれました。



4.Bekon『Get With The Times

Get With The Times [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (TRCP226)

Get With The Times [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (TRCP226)

  • アーティスト:Bekon,ベーコン
  • 出版社/メーカー: Traffic
  • 発売日: 2018/01/24
  • メディア: CD
 

  R&Bを基調に、ピンク・フロイド的壮大なサウンドスケープが構築されていて、ソングライティングと歌の素晴らしさも相まって比類なき完成度を誇る完璧なデビューアルバム(彼はケンドリック・ラマーの『DAMN.』にも参加したプロデューサーでもある)。

 表題曲のM12「Get With The Timesはクールなラップから超美麗なコーラスパートになだれ込み、ラストの泣きのギターでもっていかれる2018年屈指の名曲なので、未聴の方は今からでも是非!



3.宇多田ヒカル『初恋』(前作:2016年No.19)

初恋

初恋

  • アーティスト:宇多田ヒカル
  • 出版社/メーカー: ERJ
  • 発売日: 2018/06/27
  • メディア: CD
 

  表題曲の「初恋」ヤバ過ぎ。デビュー時から彼女の中に在り続けるその最もピュアな感情がどれほどかけがえなく、誰にも侵すことの出来ないものであるかをまざまざと感じさせられる。オーケストレーションを用いたドラマチックさ、異次元レベルの透明度、壮麗さにノックアウト。

 それに牽引されるようにどの曲も輝きに満ちていて、母の死と直面した前作から、力強くネクストステージへの飛翔を感じさせてくれた快作。個人的には一番好きだった『ULTRA BLUE』を超えた感すらある。念願のツアーも素晴らしかったし、まだまだ彼女から目が離せない。



2.Masego『Lady Lady』

Lady Lady

Lady Lady

  • アーティスト:Masego
  • 出版社/メーカー: Caroline
  • 発売日: 2018/11/30
  • メディア: CD
 

  トラップ・ハウス・ジャズなるサウンドを標榜するマルチプレイヤー/プロデューサーのデビュー作。随所で挿入されるコーラスはルーツのゴスペルが活かされている感じだし、YouTubeで1億再生超えのFKJとの共作M13「Tadow」で聴かせる自身のサックスプレイなど、各サウンドの組み立て、配置のセンスがずば抜けていて、超気持ちよくトリップさせてくれた。



1.Jon Hassell『Listening To Pictures』

Listening To Pictures (Pentimento Volume One) [帯解説 / 国内仕様輸入盤CD] (BRNDEYA1CD)

Listening To Pictures (Pentimento Volume One) [帯解説 / 国内仕様輸入盤CD] (BRNDEYA1CD)

 

  無限にイマジネーションの広がりを感じさせてくれる、魅惑のアンビエントミュージック。医療機器の信号音の如し断続音に誘われ、深層意識まで深く潜っていくようなM1「Dreaming」から始まり、ラストの「Ndeya」まで全8曲39分、聴く度に違う風景がみえ、飽きることがない。

 間違いなく最もリピートした2018年作だし、そればかりか年を跨いで今日に至るまで(主に就寝時にだけど)ヘビロテし続ける愛聴盤となった。睡眠導入効果も抜群。




~2018年ベストまとめ~

 

01.Jon Hassell『Listening To Pictures - Pentimento Number One』

02.Masego『Lady Lady』

03.宇多田ヒカル『初恋』(前作:2016年No.19)

04.Bekon『Get With The Times

05.J.P. Bimeni & The Black Belts『Free Me』

06.Chara『Baby Bump』

07.Billie Eilish『Don't Smile At Me』

08.JULIAN BRANCO『Soltar Os Cavaros』

09.Vicktor Taiwo『Joy Comes In Spirit』

10.みんなのこどもちゃん『壁のない世界』

11.THIEFS『Graft』

12.Janelle Monae『Dirty Computer』

13.Blood Orange『Negro Swan』

14.The Internet『Hive Mind』

15.w-inds.『100』

16.Jamie Isaac『(04:30)Idler』

17.Fatima『And Yet It's All Love』

18.cero『POLY LIFE MULTI SOUL』

19.Mitski『Be the Cowboy』

20.Georgia Anne Muldrow『Overload』

21.Makaya McCraven『Universal Beings』

22.Jack White『Boarding House Reach』

23.David Byrne『AMERICAN  UTOPIA』

24.空中泥棒『Crumbling』

25.中村佳穂『AINOU』(前作:2016年No.28)

26.lyrical school『WORLD'S END』(前作:2016年No.18)

27.早見沙織『JUNCTION』

28.Arctic Monkeys『Tranquility Base Hotel & Casino』

29.Solomons Garden『How Did We Get Here?』

30.春ねむり『春と修羅

31.おやすみホログラム『4』

32.Starchid & The New Romantic『Language』

33.Ariana Grande『Sweetener』

34.KID FRESINO『ai qing』

35.BRMC『Wrong Creatures』

36.Tim Bernardes『Recomeçar』

37.Anderson .Paak『Oxnard』

38.・・・・・・・・・『         』

39.BTS『FACE YOURSELF』

40.桜エビ~ず『sakuraebis』



 国内アーティストの作品は40枚中12枚。2017年版は35枚中9枚、2016年は30枚中11枚だったので、去年に引き続きやや少ないかなと。

 これ以外では、カマシ・ワシントンは圧倒的な完成度を誇っていたものの3枚組の超大ボリュームでリピートするのがしんどかったため選外に(すまんカマシ^^;)。

 

 あとは石橋英子ナイン・インチ・ネイルズ、トロピックス、ライ、パーフェクト・サークル、VOQ、コンピューター・マジック、ボーイジーニアスなどもいい出来だったけれど枠が埋まったので惜しくも外れた感じ。

 

 さあ、ここから年末にまとめ買いした未聴の2019年作のアルバムを聴いてから順位付け→再びコメントを書く作業が始まるぞ(今度こそあまり空けずに仕上げたい)。俺の戦いはまだ始まったばかりだ! またお会いしましょう!

 

2019年ベストはコチラ