ノーボーダー・インプロα

音楽への想いを刻みたい

【前編】sora tob sakana解散ライブを観て胸に去来したもの

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 開演時間を過ぎてもまだ場内にはSEの厳かなチェロの調べが流れていたが、それもほどなくして止み、波の音と鳴き声から、鼓動を思わせるようなドラムがゆっくりと響き始めた。それと共に悠然と泳ぐ巨大なクジラが紗幕に浮かび、始まりを告げる『whale song』が耳に滑り込むと、"untie"のシンボルが眼前に映し出された。

思わず身震いしてしまった。あの発表からこの日を迎えるまで感傷に浸ってしまうことが多かったが、時はお構いなしに進み続け、今こうしてここにいる。

 

さぁ、と。

バンドメンバーが高らかにかき鳴らす音のシャワーの中、彼女たちの最後のステージをしかと見届けようと覚悟を決めた。そしてー

 

sora tob sakana始めます」と、いつも通りに開幕が宣言され、一同が拍手で迎えた。

 

クラシカルなイントロが流れる。この日初めて歌われたのは『ribbon』だった。幕が覆われたまま、メンバーがシルエットのみ映る演出で幻想的だったが、特に思い入れのある曲だったので正直3人の姿を直接観ながら聴きたいという思いも過った。ただ、バンドメンバーによってよりドラマチックに奏でられた大好きな曲は、これまでの事や、未だ見ぬ未来をも内包しているようなスケールをもって胸に響いてきて、素晴しいと感じるほどに涙腺が緩んだ。この魔法がかった音楽に、僕はずっと魅了されてきたのだ。

 

続いて慣れ親しんだ静かなイントロから、ブレイクと共に幕が降りると、新衣装に身を包んだふぅちゃん、まなちゃん、なっちゃんの姿が。『deep blue』時同様本人達が望んだのだろう、やはりカラフルな衣装だ。曲は彼女たちの原点とも言うべき、デビューシングルの『夜空を全部』。見た目だけではない、当初よりもずっと表現力を身に着けた彼女たちの成長を、そこに至るまでの軌跡を感じて、またしてもじんとしてしまう。

 

次は2ndアルバムのリード曲『knock!knock!』。アラビアンな間奏と両手を上げて身を揺らす独自の振り付け、それに彼女たちの背に広がる曼荼羅の映像も相まって世界観に引き込まれる。この曲の振り幅がたまらない。

そして曲終わりの拍手が鳴り止む前にギターがけたたましく唸りを上げ、きらびやかなロックチューン『夢の盗賊』へとなだれ込む。オサカナの曲は夜をイメージしたものが多いが、このトリップ感は格別だ。サビでのユニゾンのボーカルが力強く、歌詞通り回転するような重厚なグルーヴと共に夢の世界に連れて行ってくれる。間違いなく今までで一番、特別な夜へと。

 

MCタイム。なっちゃんのライブビューイング・配信を含めたお客さんへのお礼から、「私たちsora tob sakanaにとって最後のパフォーマンスになるので、最後まで目に焼き付けて欲しいなと思います。最後まで一緒に楽しんでいきましょう!」と続けるふぅちゃん。最後だからと気負った様子はない挨拶でオサカナらしい。まなちゃんのフリで次へ。

 

観客のクラップで一体となる『Lightpool』、洗練されたサウンドと間奏でのモデルウォークも印象的な『FASHION』とアーバンなナンバーを続けた後、ライブ定番曲の『鋭角な日常』へ。タイトなリズムに乗せて有機的に絡み合う各楽器の音色が異国情緒を漂わせ、赤い照明とお馴染みの炎のVJ映像、3人の気合の入った歌唱とダンスが会場を熱を帯びた異空間に染め上げていく。ふぅちゃんがヘドバン時に「一緒にー!」と煽ると特効の火花が上がり、ステージに華を添えた。

 

続く『flash』は疾走感溢れるロックチューンだが喪失や別れといったテーマが含まれていて、それを体現するような3人の表情に引き込まれる。喜びも悲しみも呑み込んで、僕らは前に進んでいく。

 

メンバーも特にお気に入りという『Brand New Blue』では特に明るい笑顔が見られパフォーマンスも爽やかに。後半になるにつれエモさが加わってくるのも良い。ふぅちゃんのポーズとりながらのニコっとした表情最高かよ死んだ。

 

MCで「(鋭角な日常で)生火花が上がりました。やったね!」とふぅちゃん。冒頭の紗幕など、今回初めて取り入れた演出について触れ、和気あいあいとするオサカナちゃんズ。

なっちゃんは新衣装について「最初は真っ白な衣装ばっかりだったじゃん? 最後にふさわしい感じになったよね。色とりどりで」と話した。それは、周りの大人たちに言われるがままだった少女たちが、大人に近付いたことの表れのようにもみえた。

 

少ししっとりとした『タイムトラベルして』から『秘密』に。冒頭でまなちゃん今日イチの笑顔。可愛らしい曲調と振り付けだが、これまた後半にかけてダイナミックなバンドアレンジで盛り上がり、それに共振するような3人のパフォーマンスに心をギュっと掴まれた。

 

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演出含め屈指のキュートさを誇る『 シューティングスター・ランデブー』を終えて、冒頭でグルーヴィーな演奏でソロダンスをフィーチャーした後、シームレスに『魔法の言葉』に突入。そのライブならではのアレンジに会場が沸いた。後半でも加えられた箇所があるが、もともと曲がもっていたドリーミーな世界観をさらに輝かしくさせていて、その中で愛らしく歌い踊る彼女たちがあまりにも眩しく、素晴らしかった。

 

次の『おやすみ』は夕暮れから夜に沈んでいくような穏やかなステージで、その飾り気のない無垢な歌唱に一気に郷愁に包まれる。心境と重なっているのだろう、3人の切なげな表情が印象に残った。ラスト、並んでのおやすみポーズが尊い

それから幻想的な雰囲気の『アルファルド』を終えてMCへ。

 

まな「ここまで16曲だそうで、普段の定期公演一本分が終わってしまいました」

ふぅ・なつ「「おつかれー!」」

まな「でも〜、まだ、1時間なんだよ? すごくなーい? はービックリ……」

なつ「1/4みたいな感じってこと? ウケるね(苦笑)」

 

"まだそんなに残ってるのかよ……"と言わんばかりの引きトーンに笑ってしまう。確かに改めてクレイジーな公演だ。こっちは嬉しいけども。この緩いMCももう見納めかと思うと寂しくなる。

 

まなちゃんの曲フリで鋭いギターカッティングが耳に残る『乱反射の季節』が披露されると、そこから原曲より更に勢いを増したギターとコーラスで盛り上がる『嘘つき達に暇はない』、ダンサブルなグルーヴにクール&キューティな振り付けと照明の演出も光る『silver』、ストレートにロックする『My notes』と畳み掛け、魅せられ燃えた。

 

タイトル通り祝祭感に溢れた『ささやかな祝祭』(特典会でふぅちゃんがこの曲を「本当に好き!」と屈託のない笑顔で言っていたのを思い出す)では間奏部でお馴染みのメンバー紹介。彼らのことが好きな気持ちとか、これまで一緒にやってきた絆が伝わる、幸福感に溢れたステージでとても温かな気持ちになれた。

 ふぅちゃんの「ありがとうございます!」でMCに。

 

まな「後ろにね、いま大きいLE…おぉ~」

なつ「山崎〜!(後ろのLEDに向かって手を振る)」

まな「おぉ~ど、どこ?」

なつ「山崎~~!!」

まな「ーあるんですけど、これがめちゃ動いてたらしくて。どう見えていたんだろうか?」

なつ「なんか、多分壁の中の住人の気持ちになる」

まな「あ、なるほどね。そういうやつね」

なつ「そういうやつ」

まな「はいはいはい」

なつ「はいはいはい」

照井「わかんね〜」

 

これぞオサカナMCクオリティである。お分かりいただけただろうか?

バンドメンバーとの思い出(「やっぱり人狼」となっちゃん)から定番のリンタロウさん(Dr.)のサイコパスいじりをした後、「毎回のようにワンマンライブではバンドメンバーのみなさんと一緒にやらせて頂けて、最後も一緒に出来て良かったです」とふぅちゃんが締めくくった。

 

MC明けの『発見』では歌い出しで少しミスが見えたが(前奏によるものだったよう)、逆に、難曲だらけのオサカナの曲で他にそういったものが見当たらなかったのが驚異だった。僕たちが目にしないところで研鑽を重ねてきたのだ。バンドアンサンブルの妙が光る、神妙な雰囲気の曲を、彼女たちは艶やかに、掬いあげるように表現していた。手前で三角座りのなっちゃんと、彼女を挟んで背中合わせで立つふぅ・まなちゃんの凛とした姿に感じ入ってしまった。

 

続いて『発見』に通じる独特の世界観の『パレードがはじまる』で引き込み、力強い演奏に乗った『World Fragment』ではポジティブなバイブスに溢れたステージをみせる。

 

そして『まぶしい』へ。最高揃いのオサカナ楽曲の中でも、1stアルバムの曲は特別な情緒をもたらす。青春時代の瑞々しさを宿らせるが如くドライブしまくる演奏と、それに乗せて"さあ行こう"と歌う彼女たちが本当にまぶしい。言葉ではとても表し尽くせない感情の波が押し寄せてくる。この世の中にこんな気持ちになれるものがどれだけあるだろう? 出来ればもっと彼女たちを見ていたかった……。ただただ素晴らしくて、切なくて、涙が溢れそうになった。

 

感動冷めやらぬ中、これまでの数々のライブでハイライトを飾ってきた『夜間飛行』のイントロが流れ出した。バックの巨大スクリーンに街明かりを見下ろしながら夜空をゆく映像が流れ、楽曲への没入感を更に高めてくれる(オサカナが目標としていた"月"へと辿り着くのもナイス演出)。3人とも楽しそうに歌っていて微笑ましい。こんな素晴しい時が永遠に続けばいいのに。この夜の煌めきを忘れまいと、目の前に広がる光景をひたすら目に焼き付けてた。

 

間奏部では、3人体制以降みられていなかったソロダンスが復活!(泣) 轟音で暴れ狂うギター&ドラムスに先導されるかのようにバーストしまくる演奏の中、バックに『FUKA KANZAKI』→『NATSUKA TERAGUCHI』→『MANA YAMAZAKI』ーと次々に名前が表示される演出もそのままで大興奮。ふぅちゃんはスタイリッシュに、なっちゃんは可愛めに、まなちゃんも可愛いめだがややマイペース気味に(笑)ーダンスを披露し、それぞれだったが皆堂々たる様が絵になっていてカッコ良かった。オーラスではこの日を祝福するかのように紙吹雪が舞い、最高潮の盛り上がりをみせる。許されるなら"ら、ら、ら"のコーラスを一緒に歌いたかったな。

「もういっかーい!!」クラップを促しながら笑顔で歌うふぅちゃん・なっちゃん・まなちゃんに、泣きのギターの冴え渡る最後のリフレイン。何度でも続けて欲しかった。夢が覚めるような切ないアウトロが終わると、拍手喝采。一部の幕が下りた。

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後編につづく