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ノーボーダー・インプロα

音楽への想いを刻みたい

私を構成する9枚(後編)

 

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つづき(5~9作目)です。前編がまだの方はコチラ

 

 

5. ソニック・ユース 『ダーティ』 (92年作)

U2などで洋楽にハマり始めていた頃、音楽好きな職場の先輩にCD、(アルバムを丸ごと入れた)MDなどを何枚かまとめて貸してもらった。ストーン・ローゼスレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンクーラ・シェイカーなど、まず間違いない面々だったのだが、例によってその時はまだ良さが分からなかった(もちろん今ではみんな好き)。そんな中一緒に貸し出されていたのがこのソニック・ユースの『ダーティ』だった。はじめて聴いたとき、「なんだこれは!?」と思った。その他のロックとは明らかに違っていたから。今までに聴いたことのないような重厚なサウンドと曲展開、曲によって替わる3人のボーカル(特に紅一点キム・ゴードンのパンクを体現したかのようなドス声には度肝を抜かれた)、何もかもが新鮮でエキサイティングだった。先輩にこの作品がとても気に入ったと伝えると少し驚かれた。それまで借りた音源の中で「良かった」と伝えていたのはヴァン・ヘイレンなどベタなものが多かったため、このバンドに反応するとは思わなかったのだろう。彼らが”ロックを解体した”先鋭的な集団であること、”オルタナティヴ・ロック”と呼ばれるジャンルに含まれる音楽だということを知り、そこから洋楽ロックへの関心が爆発的に高まりのめり込んでいくことになった。その延長上でロックに限らず様々な音楽に関心を持って開拓していけるようになった事実を踏まえると、9作挙げた中で最も重要な作品だ。

 

本作に感銘を受けて次作の『エクスペリメンタル・ジェット・セット、トラッシュ・アンド・ノー・スター』というやたら長くて覚えにくいタイトルのアルバムと、もう少し飛んで00年代リリースの『ムーレイ・ストリート』を同時に買ってワクワクしながら初めて聴いてみた時は正直肩透かしを食らってしまった。後者は一曲一曲がかなり長くて(コンパクトな曲も少しはあるが)とっつきにくく、前者は2~3分台が多いが『ダーティ』で聴けたような強烈なフックがなく、掴みどころのない曲が多くて「なんじゃこりゃ?」と戸惑ったのを覚えている(だが、むしろこっちの方が彼らの本質で『ダーティ』の方がイレギュラーであったことを、めげずに他のアルバムを買い集めていく中で知っていくことになり、その過程でこの二作も好んで聴けるようになった。結果、よりこのバンドのことが好きになったのだった)。

 

本作は(彼らの弟分的存在でもあるバンド)ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』(91年作)を手掛けたプロデューサー:ブッチ・ウィグとミキサーのアンディ・ウォレスを雇い、グランジオルタナムーヴメントの時流に乗るという彼らのキャリアの中で唯一といっていいアルバム……なのだが、振り返ってみてメンバーはあまり本作を快く思っていないようだ。確かに、同じ90年代にリリースされた『ウォッシング・マシーン』や『ア・サウザンド・リーヴス』といったエクスペリメンタルな名作群と比べてみれば納得も出来るのだが、それにしてもここに息づくロックのダイナミズムは凡百のオルタナ系ロックバンドとは比べものにならないほど素晴らしいし、個人的な衝撃体験を差し引いても十分評価出来る作品だと思う。ジム・オルークが”彼らがキャリアの中で最もうまくスタジオを使った作品”と評している点も見逃せない。ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』のミキシングには未だに納得いってないのだが(バンドとの相性の問題が大きい)、こちらは文句ナシにカッコいい仕上がりで賛辞を送りたい。

曲リンク:Sonic Youth - Purr

 


6. ローリング・ストーンズ 『フォーティ・リックス』(02年作)

言わずと知れたストーンズのオールタイムベスト盤。9枚選ぶ企画でベストを挙げるのは卑怯なんじゃないかという気がするが(二枚組だし。もう一作二枚組ベストあるから合計11枚になっちゃうし)、欠かせないものなので仕方がない。GLAYB’z、それにラルクを主食としていた高校時代ー部活のT先輩から「おまえはまたラルクを聴いてるのか」とよく言われていた。ひとつ上の学年の先輩方は主に60~70年代の洋楽ロックを好んで聴いていたので、いかにもな流行りの音楽しか聴かないでいるヤツが残念に感じられたのだろう。今ならその気持ちはよく分かる。残念ながら高校時代は洋楽でかつ昔の音楽になんて露ほども関心が持てなかったので適当に流していたのだが、その先輩が残したある言葉がずっと胸に残っていたのだった。卒業して数年後、洋楽に興味を持ち始めた時にその先輩の言葉が改めて胸をよぎった。”ローリング・ストーンズとか、めっちゃカッコええやん”ーと。そういえばそんなことを言っていたなと。じゃあ、どれほどのものかいっぺん聴かせてもらおうか、と。ただキャリアがあまりにも長くどの作品から手をつけたらいいか分からずにいた。そんな自分にこれ以上ないほどの打ってつけの本作がリリースされ、僕は初めてストーンズの音楽に触れる事になる。

 

アルバムを聴き終えて抱いた感想は、『先輩の言った通りだった…』だった。確か前述したU2の『アクトン・ベイビー』の後に聴いたと思うのだが、その時とはまた違った衝撃が走った。めちゃくちゃカッコイイ。カッコ良すぎる……!ストーンズの40年もの歴史を凝縮したオールタイムベストの破壊力は比類なきものだった。マグマのような熱量があって、これがロックだ!と言わんばかりの研ぎ澄まされた曲の数々に完全に打ちのめされてしまった。どの曲も押しも押されぬ名曲揃いだと思うが、個人的には「黒くぬれ!」「アンダー・マイ・サム」「ギミー・シェルター」「ミス・ユー」「シャッタード」「アンダー・カバー・オブ・ザ・ナイト」「ハッピー」などを特に気に入った。いずれも素晴らしいアイデアが盛り込まれていて、その多彩さに心底驚かされた。昔から……というか、”ロック”が勃興した時代にこそエキサイティングなロックがあったのだと教えてくれて、その黄金時代に目を向けさせてくれた生ける伝説:ローリング・ストーンズに心から敬意を表したい。可能性は限りなく低いが、もしT先輩に再会するようなことがあったら伝えたいと思う。”ストーンズ、めっちゃカッコイイですね!”と。

曲リンク:The Rolling Stones - Paint It, Black

 

 

7. 井上陽水 『GOLDEN BEST』(99年作)

ストーンズと同じく2枚組のオールタイムベストで、陽水ベストの中でも決定盤と言えるものだろう。リリースされた当時は「知っているけど特に気にかけていないアーティストのひとり」に過ぎなかったので、本作の存在すら知らなかった。前述したとおり洋楽を少しずつ開拓していっていた時分に、今はなき音楽バラエティー番組『Hey!Hey!Hey!』で「飾りじゃないのよ涙は」を披露する陽水を目にしたことがキッカケだった。この曲は中森明菜の大ヒット曲なのでもちろん知っていたのだが、セルフカバーする陽水のあまりものカッコ良さに思わず痺れた。中森明菜ver.とは大きく異なる落ち着いたジャズ風のアレンジが施されていて、それに乗せて紡がれる歌声のえも言われぬ色気といったら……!その、キャリアを積み重ねてきたアーティストならではのベテランの風格と圧倒的な存在感を目の当たりにしたその日、僕の中で井上陽水は”ただ知っているだけのアーティスト”から”無視出来ない存在”になったのだった。

 

すぐにこの「飾りじゃないのよ涙は」が収録されている『Blue Selection』(全編ジャズアレンジによるセルフカバーアルバムで、こちらも本作と並ぶ名盤)と、この『GOLDEN BEST』を買いに走った。個人的にベストアルバムというものはあまり好きじゃなかったのだが、ストーンズや陽水のように長年にわたる活動により多くの作品をリリースしているアーティストならば、そのキャリアを包括したベストの意義は非常に大きいと感じる(オリジナル3~4枚程度ですぐベストを出すケースには疑問を覚えるが)。パフィーに提供しこれまたヒットを飛ばした奥田民生との共作「アジアの純真」、世代を越えて愛される名曲「少年時代」、自殺する若者が増えたニュースより何より”君に会いに行かなくちゃ”と思いの丈をぶつける初期陽水流セカイ系ナンバー「傘がない」、日本初のミリオンセールスを記録した3rdアルバムの表題曲にしてライブで最強に化けるカオティックなロックナンバー「氷の世界」、同アルバム収録で故・忌野清志郎と共作した静謐でこの上なくロマンチックな「帰れない二人」、安全地帯のヒット曲にして夜のムーディさを醸し出す「ワインレッドの心」、心地よいトリップ感をもたらすミステリアスでエロティックな「Make-up Shadow」、ラストの咆哮のようなボーカルが鮮烈な「Just Fit」……などなど、ここでは到底書ききれないほどの名曲たちが収められていて、その完成度と振り幅に完全に虜になってしまった。

 

一般的にどちらかというと「少年時代」に代表されるようなメロディーメイカーとしてのイメージが強いと思うし僕も概ねそういった認識でいたのだが、一方で「娘がねじれる時」や「青空ひとりきり」、前述した「氷の世界」(ボブ・ディランに影響されたという歌詞は意味不明だが、寒々しく混沌とした世界を表しているということはよく伝わってくる。この曲以降現在に通じるフリーキーな作詞スタイルになったそうな)で展開されるような歪な世界観も持っており、むしろこれらはコンプレックスの塊だった陽水にとって欠かせない表現であることが、初期の作品から追っていくとよく判る(本作には未収録だが2ndアルバムの「東へ西へ」というライブ定番曲の詞世界もかなりのカオスさだ)。言ってみれば陽水の裏本道とでも言うべき「顔」により一層魅力を感じ、これまでにリリースされた作品を追っていく中で、井上陽水は僕の中で”唯一無二のアーティスト”として殿堂入りを果たすことになったのだった。

曲リンク:井上陽水 - 帰れない二人(Live ver.)

 

 

8. アルド・チッコリーニ 『ベスト・オブ・サティ』(07年リリース)

エリック・サティに興味を持つようになったキッカケは田中ロミオの『最果てのイマ』だった。ゲームスタートと同時に「ジムノペディ」が流れだすのだが、主人公のやや難解なモノローグと共に響く静謐で理知的なその音楽は、物語への没入感をより一層高めてくれた。もちろん有名な曲なので知ってはいたが、魅力に気づいたのはこのゲームをプレイした時である。何度聴いても飽きることはなかった。ジムノペディ以外にも「グノシェンヌ」、「ジュ・トゥ・ヴ」、「ピカデリー」も作中で使われていて、いずれの曲も良かったので何かアルバムをーとアマゾンで探して見つけたのが本作(ちなみにゲームのサントラもヤフオクで入手した)。摩訶不思議なタイトルを含みつつもとても充実した内容で、新鮮な驚きと興奮を与えてくれた。冒頭の3つのジムノペディ、6つのグノシェンヌ(特に流麗な「Ⅳと」、麻薬的なまでに甘美な「Ⅴ」にはヤラれた)で浸っていたら、次の「でぶっちょ木製人形へのスケッチとからかいⅠ」で強烈なパンチをお見舞いされることになる。古典的なクラシックを思わせる軽快な入りから、突如フォルテッシモで攻撃的なフレーズが叩き込まれ、それからまた元の曲調に戻るというプログレ的な展開に心底驚かされた。それまでに聴いたメロディアスな曲とかなり違うー!この作曲家はどうやら一筋縄ではいかないらしいと認識しつつ、その挑戦的な作風により関心を深めることになった。

 

サティは西洋の伝統的な作曲技法に疑問(退屈さと言ったほうが正確だろうか)を感じていたようで、自らの創造性の赴くままそこから逸脱した楽曲を多く残している。前述した「でぶっちょ木製人形へのスケッチとからかい」はライナーノーツによるとモーツァルトシャブリエドビュッシーらが素材として取り上げたスペイン風の音楽をからかったものとの事だが、トルコ行進曲のフレーズを引用しつつもそれに牙を立てるようなⅠにはパンクスピリッツを感じさえする。タイトル含めこういった皮肉を込めたパロディーが散見されるのだが、単純な悪戯心のみならず、その根底には既定の枠に囚われることなく音楽の可能性を切り開いていかんとする精神性を感じ取ることが出来、感動を覚えてしまう(”混沌こそ未来だ!”と変則チューニングやノイズを用いてロックの可能性を切り開き、オルタナの源流となったソニック・ユースから受ける感銘と同種のものをー)。本作には未収録だが、同じフレーズを840回繰り返す「ヴェクサシオン」で注視すべきは音楽性そのものというより、聴衆に音楽の意味について問いかける在り方だろう。この曲が直接的にどのくらいの喚起力を伴ったかは判らないが、酒場で客の邪魔にならない演奏を心がけた体験に起因して自ら『家具の音楽』と称する音楽を生み出すようになり、それを起源としてアンビエントミュージックが生まれたりといった後に及ぼした影響を考えると、「開拓者」として(おそらく意図したであろう)人々の意識を変えさせることには成功したのではないだろうか(深読みする人間へのからかいというのならばそれもまた一興)。

 

こういった先鋭性のみに終始していないのもポイントで、晩年の「5つの夜想曲」のような静謐さを湛えた曲も素晴らしいし、ミュージック・ホールのダンサーの依頼によって元は管弦曲として書かれた4手のための「風変わりな美女」は、まさにホールで演奏するに相応しい華麗さと高揚感を併せ持っていて強く引き込まれる(特に「眼の中の神秘的なキス」のスリリングさはたまらない)。きっちりと大衆向けの曲を書きながらも音楽家として未知の領域へと挑戦し、支持されていったところがサティを偉大たらしめているのではないかと思う。繰り返しになるが僕が最も感銘を覚えたのはその精神性である。ジャンルの壁やルールに縛られることのない音楽はエキサイティングだし、そういった素晴らしい作品を見つける視野を広げてくれたのは間違いなくここに収められたサティの楽曲群だ。今後どのような感動を与えてくれるアーティストに出会おうとも、かけがえのない特別なものとして、彼の音楽をまた聴き返すのだろう。

曲リンク:アルド・チッコリーニ - ジムノペディⅠ.ゆっくりと悩める如く

 

 

9. トン・ゼー 『パゴージ学習~オペレッタ女性差別と愛」』(05年作)

“唯一無二。こんな音楽を作っている人は世界でただ一人だけだろう”ー初めて聴いたときの印象だ。十年以上の歳月を経た今でも変わらない。洋楽ロックを聴き始めていた当時の僕はいつものようにタワレコでそれらのコーナーを巡っていたのだが、たまたまワールド系を取り扱っている一角に行き当たり、そこで目に入ったのがブラジルの鬼才:トン・ゼーの本作『パゴージ学習』だった。馴染みのない単語に何やら意味深な副題が付けられたアルバムタイトル、(英米ではあまりお目にかかれないタイプの)アート性の高いジャケに惹かれて試聴したのだが、その時はまさに電撃に撃たれたかのようだった。機械音なのか人の声を加工したのか判別出来ないムシ声に誘われる幕開けから、オルタナロック色強めの重低音リフに、ゲストの女性とトンゼー自身の多重録音を駆使したコーラスワーク、タイトル通りオペラを思わせるチェロの調べ……それらが渾然一体となって立ち上がるM1「アヴェ・ドール・マリア」の音像は他に類を見ないものだった。その衝撃のオープナーが終わってすぐ、雪崩込むように奇天烈な音階のリフが浴びせられるや否や、”ハ パイス ハ パイス ハ パイス”という独自の語感の女性ボーカルが入るM2「愚かな若者」で僕は完全にK.O.された。カッコイイ、カッコ良すぎる……!当然の如く即購入を決意し、愛聴盤となった。

 

実はこのアルバムに出会う前に、足を運ぶ度に会話していた近所のレコード屋の主人から「特にブラジル音楽はいい」という話を聞いていて、理由は?と訊ねると、ポルトガル語の響きの綺麗さと、様々なジャンルの音楽がナチュラルにクロスオーバーしていてレベルが高いから、というような答えが返ってきていた。その事もあってブラジル音楽には少なからず関心を抱いていたのだが、トン・ゼーも、独創的な音世界や奇天烈さで語られがちだがそういった変人的要素のみならず、ブラジルのアーティストらしくサンバやボサノヴァに根付いた歌心を持っている(M5「ムリェール・ナヴィオ・ネグレイロ」やM9「ふたつの意見」、M15「11時の夜汽車を再び」、M16「ビートルズ・ア・グネラル」といったメロディセンスの光るフォーキーな曲を聴けばよく分かる)。レコ屋の主人が言っていた通りポルトガル語の美しさも堪能することが出来るし、トラディショナルなブラジル音楽からオルタナティヴ・ロック、オペラ、ミュージカルといった要素を取り入れたミクスチャー具合には音楽的豊穣さを十二分に感じるし、何よりエキサイティングだ。ただただカオティックに振り切れるのではなく、基本となる”うた”の土壌に基づいて展開されるからこそストレンジさも難解なものとしてでなくポップなものとして胸に響くのだろうし(残念ながら国内盤にも対訳は付いていないが、歌詞の内容そのものは本国の人間ですら読み解くのが困難なものであるらしいがw)、セールス不振に陥っていた70年代のトン・ゼーの音源を発掘し見事復帰へと導いたデヴィッド・バーンをはじめとして、ベックやトータスといった一線で活躍するアーティストらに熱烈に支持されるのも納得である(ミクスチャー感覚に溢れ、時にストレンジさを盛り込みながらもあくまでポップな彼らの音楽を聴くとその影響がみてとれる)。

 

歌詞が掲載されたブックレットの中身のアートワークもエキゾチックで最高だし、強いコンセプトを感じさせる3部からなる”サンバ・オペラ”のトータルの完成度は尋常じゃなく高かった。アヴァンとポップと喜びと哀しみと、67歳(当時)のひとりの男の人生とイマジネーションと祖国ブラジルの歴史を飲み込んだ圧倒的なドラマを感じさせる一大絵巻に圧倒された。とにかく、この「未知の世界に初めて触れてワクワクする体験」はかけがえのないもので、ここからブラジル音楽やワールドミュージックへの関心が高められ、楽しめる音楽の幅がそれまで以上に広がったのだ(九作の中には選ばなかったが、本作と一緒に購入したマックス・ジ・カストロの3rdアルバムも、洗練されたモダンなブラジル音楽として衝撃を与えてくれた)。英米以外の国の音楽でもエキサイティングなものはたくさんあったし、これからもたくさん出会えるだろう。新たな扉を開いてくれたトン・ゼーに感謝したい。もう齢80にもなり、あとどれくらい作品を残せるか判らないが、命尽きる瞬間までその唯一無二の創作の炎を燃やし続けて欲しい。

曲リンク:Tom Zé - Ave Dor Maria

 

 

 

~オマケのあとがき~

年間ベストを書きたい!という動機で始めた当ブログ。その前に自己紹介になるような記事を、ということでこれを書き始めたら想像以上に時間がかかってしまって(前編→後編の間に一ヶ月以上^^;)大変でした。「#私を構成する9枚」のツイッタータグはその人の音楽歴が垣間見られて面白いなあと興味深く追ってたんだけど、自分でアップするタイミングを完全に失ってそのままになってしまっていたので、今回こんな風にまとまった文章と共に挙げられて良かったです(ようやく胸のつかえがとれた感じw)。

 

高校時代には実は後輩から薦められてBUCK-TICKにもハマっていたり、洋楽聴き始めの頃には友人から借りたレッチリの『バイ・ザ・ウェイ』や、コールドプレイの『静寂の世界』なんかにも衝撃を受けていたりはしたんだけど、いかんせんトータルで9枚しか選べないので厳選した結果が以上です。有名なアーティストが多いのであんまりないかもだけど、読んだ方に「これ聴いてみよう」とか思ってもらえたら嬉しいです。あとは何といっても自分以外の音楽好きの方が書いた『私を構成する9枚』の記事が読みたい!(元々こういうの書いてくれてる人がいたらいいなと思って書き始めたところもあるので)もし書いた方がいたらお知らせください、読みに行きますw

 

さてこの記事を書きながら2016アルバムベストの選考も並行してやっていってますが(もちろん現在進行形)、ようやく選出するアルバムと順位が大体固まったかなーというところ。多くのブロガーが2016年中に選考して記事をアップしているのに脱帽。自分の場合は11~12月にかけて買い逃していたものをまとめ買いしたというのもあるけど、それにしても時間かかり過ぎ……三月中にはアップ出来るよう頑張るつもりなので、よろしければまた読みに来てください。

 

 

私を構成する9枚(前編)

 今更ながら「年間ベストアルバム」をブログに書く、というのをやってみたかった。ナウでヤングな若者は知らないかもしれないが、かつて隆盛を誇っていたmixiというSNSがあり、僕はそこでアルバムやライブの感想を書いていた。その際年間ベストもアップしたことはあるのだが、いつも以上に反応が薄く、あまり人に読んでもらえていない状態だったのでやや残念な気持ちになったのを覚えている。

 それから月日が経ち、(ツイッターの利用に伴い)mixiから遠ざかり、諸々事情があって音楽からも遠ざかり気味になってしまっていたのだが、近年熱を取り戻してきて、2016年は傑作ラッシュで最高に盛り上がることが出来た(91年以来の大豊作と言われているようだ)。それで、是非とも自分の中でベストを選んでネットに残しておきたくなった。それほどアクセスは見込めないだろうが、グーグル等で検索をかけてどこかの誰かがフラっと自分のページを訪れる可能性が少しでもあるって素敵やん?

 ただいきなりベストだけを挙げるより、どんな音楽を聴いてきたヤツなのか解ったほうが少しは面白みが出るような気がして、自己紹介も兼ねて以前ツイッターで流行っていた『私を構成する9枚』を挙げて、それらについてちょっと語ってみることにした。まずは四作。以下本文。

 

 

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中学に入るくらいまでは全くと言っていいほど音楽に関心がなかった。確か中二くらいから姉が好きだったスピッツをちょこちょこ聴くようになり、気が付くと中古でアルバムを買い漁るようになっていた。……と言っても、その時に買っていたものは今ではほぼ聴かないような量産型のポップスが大半を占めていたので、真の意味で音楽が好きになるのはもう少し後になるのだが、、、ただ選んでいたものはどうあれ猛烈に音楽を求めるようになっていたのは事実だと思う。


おそらく心の奥底では(今でも最も好きな)ロックを求めていたと思うのだが、僕が巡っていた中古屋は、CDとは別にゲームや本などを併売しているようなところが多く、あまりそのテの音楽を見つけられなかった。それでひたすらポップスを買っていた。クラスメイトが「ミッシェル・ガン・エレファントかっこええわー」と言っていたのだけど、当時の僕はあのチバのダミ声が絶対的に受け付けられなかった(余談だがこの”ダミ声苦手意識”はニルヴァーナなどの洋楽ロックを聴いていく上でハードルとなり、受け入れられるようになるのにそれなりの時間を要した。今ではミッシェルはフェイバリットに挙げるバンドになったよ)。


パンクもいまいち肌に合わなかったのでブルーハーツも聴けなかったし、、、おまえロックスピリッツのロの字もないじゃないかという感じだ。ただ、もしこの時期にナンバーガールスーパーカーに巡り合っていたらもっと早くロックに目覚めていたかもしれないし、そうであったら良かったのにと思う。アジカンとかがもう少し早く活動してくれていたら…とも(好きだけど、出来れば青春時代に聴きたかったバンドだ)。

 

 

以下に挙げるのは、そんな音楽に関心の持てなかった時代から、音楽に没頭するようになる過程で特に強い衝撃を受けた九作である。

 

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1. L'Arc~en~Ciel 『True』 (96年作)

一番初めにハマったバンドはL'Arc~en~Cielだ。当時ビジュアル系(というのも大雑把なくくりだが)ロックバンドとして人気を二分していたGLAYもよく聴いたが、ハマり具合で言えばラルクの方が上だった。キッカケは、これまた姉がTSUTAYAでレンタルしていた『Heart』のアルバムで、モノクロのジャケが示すようなダークな世界観と流麗なメロディーに惹かれ、自分で購入。潜在的にロックを求めていたこともあってかドハマリし、過去作を買い集めていく中で出会ったのがこの『True』。『HEART』の一作前のアルバムで、これより前にインディーズ作含め三作リリースされているが、いずれも違うカラーだったことに感心した。その中でも最もポップに振り切れていたのが本作で、※「Caress of Venus」「flower」「風にきえないで」「Lise and Truth」といった高揚感溢れるナンバーに心酔し、ラストのロックバラード「Dearest Love」に浸りきって終わるーというのを通学・帰宅時に繰り広げていた高校時代(この頃の携帯プレーヤーはMDだったなぁ)……

 

卒業して数年後に洋楽ロックを聴きだしてからこのバンドから遠ざかることになるのだが、海外での評価の高さは伊達じゃない。世界の音楽と比べても十分通用する強度を誇る楽曲群は、時を経て再び僕を魅了したという(しらんがな)。個人的にダークさ妖艶さに魅力を感じて聴き始めたバンドだが、その正反対の光が射すような曲も自然に並ぶ振り幅。いまのポップさを楽しむルーツはここにあるのかも?と挙げた次第。なにより一番はじめに夢中になったアーティストだし。

※この曲については少々語りたいことがあるのでまたの機会に書ければと思う。

 

 

2. 宇多田ヒカルDEEP RIVER』 (02年作)
今でこそフェイバリットに挙げるSSWだが、華々しくデビューした当初はまったくと言っていいほど関心を持てず聴いていなかった。「Automatic」や「First Love」といった大ヒットシングルもピンと来なかったし、同時期にデビューしていた倉木麻衣等に含まれるR&B系のシンガーの一人としてざっくり認識していたように思う。そんな感じだったのだが、「Wait & See~リスク~」のMVを視聴して「お」と思った。それまでのシングルとは異なる愁いを帯びたメロディー、を携えながらも強い意志で前に突き進んでいくような何とも言えぬ疾走感に魅力を感じた。それからこの曲が収録された2ndアルバムを(遡って1stアルバムも)中古で買って聴き、新作を待って初めて新品で購入した彼女の作品。


まだR&Bのフォーマットに収まっていた前2作からより文学的なアプローチを強め、(現在へと繋がる)確固たるスタイルを確立した名盤、だと思っている。殊更強調する必要もないかもしれないが彼女のソングライティング能力はやはり抜群だと思っていて、”全力尽くしてもダメだったらそれもまた風流”(「プレイボール」)や、”「どちらまで行かれます?」ちょっとそこまで「不景気で困ります(閉めます)ドアに注意」(「traveling」)”といった独特の感性から紡がれるフレーズの数々は、明らかに他のソングライターとは一線を画していると、自分の中でその評価を決定づけるものとなった。読み込む価値のある歌詞があって、琴線に触れるメロディーがあって、「いい歌とはどういうものか?」といったことを漠然とでも考え始めるキッカケになったという意味でも、僕にとって特別な作品だ。

 曲リンク:宇多田ヒカル - プレイボール

 

3. Coccoラプンツェル』 (00年作)

先述したとおり姉の影響でスピッツを少し聴いたりするようにはなっていたものの、まだまだ本格的に音楽を聴いてはいなかった中学時代。テレビで流れていたCoccoの「Raining」のMVを目にした。姉は「この人の歌コワい」(”髪がなくて今度は腕を切ってみた”という歌詞を指してー)と言っていたけど、それとは裏腹にサビのメロディーがこれまでに聴いたどの曲とも違っていて美しく、印象に残った。ただそれからすぐにCDを手に取ることはなく、高校に上がって暫くしてから「水鏡」のMVをみて、その切実で烈しい曲に胸を鷲掴みにされてシングルを借りた時が彼女の音楽と初めて向き合った瞬間だ。それからこの曲が収録されたアルバムがリリースされるとすぐにショップに買いに行った(その日学校をサボったので母から怒られたのを覚えている)。アルバムを聴いて、すぐに特別な存在になった。それまでにリリースされた1st ・2ndアルバムもすぐに買い揃えた。

 

Coccoにハマった大きな要因として、プロデュースを手がけた根岸孝旨によるUSオルタナ直系のヘヴィーなサウンドが大きかったと思う。といっても根岸氏が”そのように仕上げた”というより、全くと言っていいほど音楽を聴いていなかった彼女が本能の赴くまま生み出した楽曲群が、たまたまその系統の音と合致したから採用されたという話なのだが(Coccoが根岸氏から”好きな音楽は?”というような質問をされ、”聴いたことはないけど名前を知っているのはニルヴァーナ”と答えたという話は興味深い)。後に僕は、オルタナロックから洋楽ロックに傾倒していくことになるが、振り返ってみれば原点は彼女の音楽ということになるかもしれない。生きることの苦しみを叩きつける烈しい表現に加え、童謡やおとぎ話からインスパイアされた世界観(アルバムタイトルとジャケのCocco本人によるイラストもグリム童話の『ラプンツェル』から)もまた魅力的だった。

 

“この目さえ光を知らなければ  見なくていいものがあったよ”ー「雲路の果て」

“永遠を願うなら一度だけ抱きしめて  その手から 離せばいい”ー「樹海の糸」

”あなたの指がしみついたまま 上手に歩けるはずもないのにわたしは何処へ?”ー「水鏡」 

 

Cocco好きは大体メンヘラーとはよく言われていたことで(?)、ご多分に漏れず人生に閉塞感を覚えていた僕にもw、こういった歌詞は深く胸に突き刺さった。年齢を重ねてこれらの曲と向き合うスタンスは少し変わったかもしれないが、決して思春期の感傷と容易に切り分け出来るものではなく、特別な感慨と共にいまの自分の胸にも響いてくる。忘れてはならないものなのだと感じる。

曲リンク:Cocco - 雲路の果て 

 

4. U2 『アクトン・ベイビー』 (91年作)

能動的に音楽を求めるようになり、洋楽を開拓したい願望が生まれてくるようになったので何枚か買って聴いてみたもののいまいちピンと来ず(ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』も初めはダメだった)、「やっぱり洋楽って難しいな」と感じていた時期があった。そんな折、宇多田ヒカルのHPで彼女がフェイバリットに挙げているアーティストとしてU2の名前を見つけたことから(MTVアンプラグドでの「With or without you」のカバーでバンドを認知していたことと併せてキッカケとなった。余談だがNine Inch Nailsも一緒にフェイバリットに挙げていたのが意外だった。あと一つがビートルズだっただろうか?)、アルバムを手にすることになった。一番初めに聴いたのが『ポップ』で、その次に聴いたのがこの『アクトン・ベイビー』だった。

 

もう一作の『ズーロッパ』と併せて90年代の”ポップ三部作”と呼ばれるこれらのアルバムはU2のキャリアの中でも異色で、はじめに聴くならやっぱり王道の名盤『ヨシュア・トゥリー』でしょと言われそうだし自分でもそうだったら良かったなぁと少し思うが(その方がより変化を楽しむことが出来ただろうから)、ともあれ本作はあまりにも自分のツボだった。特に「夢の涯てまでも」「ザ・フライ」「アクロバット」などの、一種のドリーミーさを内包しつつもそれを引き裂かんばかりのスリリングな展開をみせる曲のえもいわれぬ魅力といったらなかった(言わずと知れた名曲「ワン」に、「フーズ・ゴナ・ライド・ワイルド・ユア・ホーシズ」や「ウルトラ・ヴァイオレット」といったストレートなロック・バラード曲も素晴らしい)。冷戦終結後の混乱や湾岸戦争などの不穏な世界情勢を反映した、とのことだが、それまでのキャリア集大成とも言うべき、大成功を収めたヨシュア・トゥリーの後で(『Rattle And Hum』を挟んでいるが純然たるオリジナルアルバムとしてはー)これほどドラスティックにスタイルを変化させたロックさ、旧来のファンを困惑させつつもそれ以上に新たなファンを獲得したという事実にも感動を覚えるし(きっちり全米1位、全英2位獲得)、2017年現在でもU2の中で「一番好きなアルバムは?」と尋ねられたなら迷わず本作を挙げる。洋楽に触れ始めた初期の段階で「洋楽ってスゲー!」(と書くとアホっぽいがw)と多大なる衝撃を与えてくれた作品として、絶対に欠かせない一枚。

 曲リンク:U2 - Acrobat

 

 

~後半はコチラ